FC2ブログ
« 2018 . 11 »    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 | CM(-) | TB(-) --.--.--(--) --:--

夜空の石

……いいお通夜だったな、って言うとなんか縁起悪いか。いや、こう、多くの人に惜しまれて、みたいなさ。奥さんとか子供とか、親戚とか、俺らみたいなたかだか小学校の同級生も来ちゃって、出入り口でたむろしてた人達なんかも中学か高校かのただの同級生じゃないか? そういうさ。本当に、色んな人に、ああ良い奴だったなあって思われて。なんか、そういう感じ。正直、あんまり覚えてないよな。あいつとよくやったこととか、あいつが好きなものとか。まあ、小学校の同級生なんてそんなもんだよな、普通。一番仲良かった俺もおぼろげだし……、それでも確かに良い奴だったなって。多分みんなそう思ってるんじゃないか? あそこにいた人は、みんな。
 そうそう、イツキのことで一つだけ。どうしても、何年間も覚えてることがあるんだ。ああ、別に悪いことじゃない。というかあいつが悪い事する姿とかちょっと想像できないだろ。え? 俺があいつに? いや、そういうことでもなくて。ただなんとなく、覚えてるんだ。嫌なこと悪いことじゃないから別に忘れたいとは思わない。で、不思議なことにすっかり忘れることが今までなかったんだ。こう、忘れた頃にすっと思い出すというかさ。ああ、そういやそんなことあったなーって。
 国語の授業でさ、狐とひよこと……あひるだっけ? の話やったの覚えてるか? ちょっとうろ覚え過ぎたか。確かあひるだったと思うんだけど。狐が食べようと思ったひよこを肥やすために育ててたら慕われてあひるもくっついてきて、それでそろそろ食べごろかもなんて考えてた時に狼に襲われて。そう、あったろ? それそれ。ひよことあひる助けて狐が死んじゃうやつ。
 あれの時にディスカッション、やっただろ。狼がひよことあひる見つけた時に「まだここにきつねがいるぞ」って言ったのは誰かってやつ。あれの時最初に狐が言ったって言ってたのイツキだけでさ、俺も、他のみんなも、ひよこかあひるが言ったって言ってたんだ。自分で死ぬようなことしないからって。でも、段々みんな狐がそう言った側になっていって。それで色々言われた気がするけど、俺は最後までひよこかあひるが言ったって、ずっと、最後まで。……わからなかったんだ。狐が自分で死ぬような発言した理由なんてどこにもないと思ってたし、ひよこかあひるが言ってても酷いことだと思ってなくてさ。狐のこと慕ってたから怖い時になんとかしてくれるかもって呼んだのかなーぐらいで。だからず
っと、狐がそう言ったって、そんなの意味わかんなかったわけ。結局先生も俺が納得いくようにはしてくれなかったし。むしろ、なんか怒られた気がする。
 っていうのが前提な。ん、そう、壮大な前フリ。……いやすまんて。悪いな短い話じゃなくて。続けていいか? ……ありがとな。
 でさ、その後にまた国語の教科書で、夜空の石が出てくる話やった覚えないか? そうそれ、願いを叶えてくれる夜空の石の話。結局……なんだっけ主人公の名前。そう、それだ、アツシ。アツシは見つけられなくて、それでもいいよって病気のおばあさんに抱きしめられて。そうそう、おばあさん死んじゃうやつ。え、国語じゃなくて道徳だった? いいんだよそういうのは。そこはあんま関係ないから。
 それで、それ授業でやった日の放課後に俺らで夜空の石探そうって話になってさ。俺とイツキで。話してた時はもうちょい人数居たはずなんだけど、習い事がーとか何とかで結局俺とイツキだけでさ。んで、石がいっぱいある場所ってことで、小学校から歩いて30分とかそこら辺に河原あったじゃん? ……え、マジで? 知らない? あー……そうかお前東口か。いや西口のさ、もっと向こう側行ったとこにさ、あったんだ。まさに河原って感じの河原。そう、石ばっかあって川が流れてて。いやマジであったんだって。そこだけすごい自然って感じで。まあ川汚かったしマジで石探す以外行く意味わからんみたいな場所だったしな……。まあそんなわけで河原の有効活用したわけよ。で、夜空の石な。
 まあ、当たり前だけど見つかんない。それでも普通に話しながら石ひっくり返しながら歩いてるだけで楽しかったけどな。というか今でも覚えてるんだけどさ、週5で止まる総武線とかバミトントンとかぽっと出のゴリラとかさ、そんな変な話ばっかりしてたんだよ。何だよバミトントンって! いやどれか1個ぐらい石探してる時じゃなくて別の時だったかもしれないけど。ほんとおかしかったんだよ。……あー、すまん、詳しくは覚えてない。正直俺もどんな話だったのか、なんで重要なとこ覚えてねーのかなって思う。ほんとすまん。ほんとそこ大事だったのにな。まあでもそんな馬鹿な話しながら河原で夜空の石探してたわけ。
 それで夕方になってさ、まあ見つかんないからずっと河原で駄弁って石いじりしてるだけだったわけだけど。こう、ふと思い出したんだ。さっきの話。……そう、狐とひよことあひるの話。なんで狐の台詞なのか全然納得できないって話ぐちぐちしたんだけど、イツキはずっと狐が狼にここにいるぞって言ってたんだって方にいたわけで。それでさ、聞いたんだ。イツキに。「なんで」ってな。
 ……どうだったっけな。あーそうだった。先生が言ったただの「そうなんだよ」よりは全然納得できたんだ。イツキは確かこう言った。「狐は、ひよことあひるに生きててほしかったから」。まあ確かに先生よか全然納得したんだけど。まあでも、そうかもしれないけどさあ、としか思えなくて。いやだって死にたくないじゃん。言ったら死ぬじゃん。そしたら言うのおかしいだろ。で、イツキも俺のそういう話聞いて「そうかもしれないけどさあ……」って。すげー困った顔してた。お互い微妙に納得しきれなかったんだな。それで俺が機嫌悪くなっちゃって石の扱いが雑になって、ただどかすだけじゃなくて放り投げたりして。危なっかしいよなあ。いやほんと、今だから思うけど、イツキに怪我させたりしな
くてよかったよ。んで、イツキも困った顔そのままでさ。お互いすげー機嫌悪かった。どんどん暗くなってて家帰らなきゃいけない時間も迫ってたし。
 で、ここでな、奇跡が起きるんだよ。いやもう奇跡と言っていいと思うんだ。だってほぼ奇跡みたいなもんだろ。ここで、夜空の石が見つかったんだ。
 ……いや実はな、勿論その時は知らなかったけど、ゴールドストーンって石があって。それが丁度夜空、というか星空みたいに綺麗なやつでな。その時見つけたのは多分それだと思う。いや、本当にこう、星空を集めたみたいな石で。……やめろ、俺も言っててちょっと気持ち悪かったんだ、ロマンチックとか言うなよ。まあ、それぐらい綺麗で、夜空の石って思うのも無理ない石を見つけたんだ。
 だから、夕方と夜の間の微妙に明るいけどだんだん暗くなるあの、なんていうの? あの時間帯に……宵? あ、宵ってその時間帯なんだ。へえ。……で、夜空の石を見つけて。二人ともずっとうわあ綺麗とかそんなことばっかり言ってて。はーすげえ、とか。だって見つけた時の願い事なんて一つも考えてなかったんだ。俺も、イツキも。ちょっと、冒険というか。そういうのがしたかっただけだったんだな。だからもちろん本気で探してはいたんだけど、本当に見つかるとは思ってなかったし。それで見つかった夜空の石に夢中になってたわけ。
 願いを叶えてくれることを思い出したのは、……何分後だろうな。まあとにかくしばらくたった後で。もうすっかり暗くなって、それこそ夜空になりかけだったのに二人とも大興奮で。家に帰らなきゃなんてこと忘れてその場であれこれ言ってたんだ。先に願い事の話に気付いたのはイツキだった。「お願い事! 何か叶うじゃん!」って。そう言われて俺も気づいた。それで、二人して考え始めて。イツキは10秒ぐらいしてから「オレ水泳の大会行きてえな、夏の大会。そんで優勝したい!」って言ってたよ、確か。それで「お前は?」って。すげえ……明るい笑顔って言やいいのかな。いい笑顔でな。
 それで、俺は……。俺は、その時あれしたいこれしたいってのが、出てこなくて。それで、ふと、さっきの愚痴……狐とひよことあひるの話の、あれを思い出したんだ。
 「狐があんなこと言うのわからなくても、怒られないのがいいな」って。気付いたらそう言ってたよ。それ聞いてイツキがすげえ、まあ当然なんだけど微妙な顔して。ちょっと口を開きかけて、閉じて。そんでもう一回開いて。「オレは、お前がそういうのわかんなくても、ずっと友達だよ」って。そう言った。
 その微妙そうな表情と、困った声色と、暗い宵の河原の匂いと……。その時のことが、ずっと頭の中にあって。多分、一生俺は忘れないんだろうな。
 ……んー、なんか湿っぽい話になっちまったな。こんな暗い感じにする気はなかったんだけど。今この話してさ、ずっとイツキってこんな感じでいい奴だったんだろうなあって。これしかはっきり覚えてないのにな。
 なあ、お前女房と子供がピンチの時に、自分の命張ってまで助けられると思うか? ……多分、俺は無理だね。2人にゃ悪いけど。自分が死ぬのかと思ったら、きっと足が竦むし、助ける理由を見失っちまう。それでも、そんな酷い奴でも、イツキは俺の友達でいてくれるって……そういうことだったら、いいな。あいつは命張って助けられるけど、俺みたいに酷い奴じゃないけど、そんな俺でも、それでもイツキは、許して友達でいてくれるって……。
 まあ結局ただの小学校の同級生ってだけなんだけどな。もう死んじまってるし。ふっ、はっははは。でも、あいつはそういういい奴だったからさ。だから、きっと。あれだけ穏やかで、たくさんの人に悼まれる、いいお通夜だったんだろうな。
 何か、お前はそういう話ないの?
スポンサーサイト
第三十二回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2017.01.05(Thu) 00:00
copyright © 千葉大文藝部活動情報 all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。