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Itu

 見えるから苦しいんじゃない?
 そう、あなたは言った。

 そうかもしれない。
 僕は言った。

 じゃあ、見えなくしてしまえばいい。
 そう言ってあなたは、僕の目を潰した。

 ああ、それでもまだ、あの哀しい表情が残っている。
 僕は、きっと明日も、あの表情を見たこの道を走り続けなければならない。

     §

 聞こえるから苦しいんじゃない?
 そう、次の日のあなたは言った。

 そうかも、しれない。
 僕は言った。

 じゃあ、聞こえなくしてしまえばいい。
 そう言ってあなたは、僕の耳の鼓膜を破いた。

 ああ、それでもまだ、あの小さな呟きが残っている。
 僕は、きっと眠りに落ちた先でも、あの声の夢を見る。

     §

 触れた感覚が残るから苦しいんじゃない?
 そう、次の日のあなたは言った。

 そんな気もする。
 僕は言った。

 じゃあ、触れたものを感じられなくしてしまえばいい。
 そう言ってあなたは、僕の皮膚の感覚を奪った。

 ああ、それでもまだ、あの柔らかく力ないものの感触を覚えている。
 僕は、きっと今日の夜も、暗く冷たいこの場所で一人凍え続ける。

     §

 口に入れることで知るから苦しいんじゃない?
 そう、次の日のあなたは言った。

 そうだったのかもしれない。
 僕は言った。

 じゃあ、口を閉じてしまえばいい。
 そう言ってあなたは、僕の口を縫い付けた。

 ああ、それでもまだ、舌の上を転がった苦さが消えない。
 僕は、きっとこれからも、この身に入るすべてを拒むことは出来ない。

     §

 嗅ぎ取ってしまえるから苦しいんじゃない?
 そう、次の日のあなたは言った。

 そうなのかな。
 僕は言った。

 それならば、もう、嗅ぎ取れなくしてしまえばいい。
 そう言ってあなたは、僕の呼吸を止めた。

 ああ、それでもまだ、あの鈍く重い香りが残っている。
 僕は――きっとまた近いうちに、自らの意思に反して、誰かを殺すのだろう。

 自分の自我と離れた自分が、何度も、目の前に現れた誰かを殺す。自分をどれだけ壊していったとしても、すぐにその欠損は治され、埋められ、再び自分は送り出されていく。それは、僕が僕であり、この道を進むことを定められている限り変わらない。

 ――ねえ、それなら僕は。

     §

「――おい、またか。今日は何なんだ」
「おお、お前か。あー……今日はかなり根本的な問題だよ。エンジントラブル、らしい。原因はまだ分からないそうだ。今、点検が行われてる」
「おいおい、マジかよ。今週でもう何回目だ? 月曜が前照灯と尾灯の破損ときて、確か火曜が車内放送のためのスピーカーが故障、それから……」
「水曜が車体内部と構内にそれぞれ搭載、設置されているセンサーの不感知。木曜は扉の開閉システムと踏み切りの遮断システムに問題、昨日の金曜は空調と空気ブレーキの不具合が見つかった」
「……そろそろ潮時か? こいつも」
「とにかく、連日のトラブル発生による遅延で、客もかなり苛立ってる。俺らも客の対応に行くぞ」
「ああ、分かった」


 そんな、彼らの声を聞く。彼らに、あなたの声は聞こえない。

 僕は、あなたの言葉を聞いた。
 そうして、この身の感覚を一つずつ奪ってもらった。
 それでも、すべてを戻されていく僕は、いつかまた、誰かの命を消すのだと知ったから。

 すべてを閉じ、走るのをやめた僕は間違っているのでしょうか。


 ――――ねえ、神様。
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第三十二回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2017.01.05(Thu) 00:00
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