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貴方に歌を

鼻歌を高らかに響かせながら歩いていく。視線は歌に合わせて一定のリズムで上下する。ふと、足がぴたりと止まった。その目が移すのは酒場の前。
(きっと、こういう酒場になら情報が出回っているはず。)
そして一息に酒場の扉は開かれた。
「すみませーん。あの、わたし、人を探しているんです。名前はトムって言って、明るくて茶色い巻き毛をしているんですけど、どなたか知りませんか?」
大きな声で問いかければ酒場中の視線が一斉にこちらを向いた。
「知らねーな、嬢ちゃん。なんだ、男に逃げられたか?」
すっかり出来上がっている顔の赤い男が下品に笑う。
「おじさんが想像しているようなことではないんですけど、逃げられたと言えば逃げられました。今時、探検家になるんだ!って宣言して行方をくらませちゃって…。」
声にはその相手――トムに対する呆れが多分に込められている。
「すまないね、お嬢さん。トムって名前の奴ならたくさんいるが、そんな少年心溢れるようなトムは見かけたことがないね。」
酒場のマスターと思われる人物が物腰柔らかに告げた。
ちなみにどうして探しているんだい?とマスターの声が問いかける。
酒場の面々もいきなりのお客の珍妙な言動に注目していた。
「わたしの歌声を聞いてもらうためです!」
堂々とそう宣言した声に酒場の面々は一斉に首をかしげる。明らかに説明が足りていない。
「えーと、もう少し詳しく話してくれるかい?」
マスターの声に周りがうんうんとうなずく。わかんねーぞ嬢ちゃん!と野次を飛ばす輩もいた。
えー、少し長くなっちゃいますよ?と意外と乗り気で少女は歌うように話し出す。
「わたしの家は農家で、一時的にトムを雇っていたんです。仕事を手伝っていたわたしは作業中に歌を歌う癖があって、それを聞いたトムに思いっきりバカにされたんです。…お前の声は耳障りだ、涙が出るほどへたくそだ、って!」
憤慨した様子でどんどん声は大きくなっていく。最終的には手近な机に近寄って思い切り叩いた。大きな音があたりに響く。
「しかも、トムはその翌日に急に姿をくらませて! 両親にトムは探検家になるからと言って仕事を辞めたと聞かされるし!」
連続して机が揺れる。あまりの剣幕に、そしてその内容に酒場の面々は呆気にとられている。
「言い逃げされたのが許せないから、近隣の町を探しているんです。もう一度会って、絶対にわたしの歌をうまかったって言わせてやろうと思って!」
あまりにくだらない理由だった。本人たちにとっては大切なことかもしれないが。
しかし、腐ってもそこは酒場。
酔っ払いどもはぽかんとしつつも段々少女のその剣幕に流されて、彼女を盛大に冷やかし、あるいは焚き付けた。
「あはははは、下らねぇな、嬢ちゃん!」
「いいぞ、そのトムってやつに認めさせてやれ!」
「ほんとーにへたくそなんじゃないのかー?」
無責任な酒飲みたちの言葉に笑い声で返しながら、しかし最後の一言にはしっかりと反応した。
「言いましたね!? いいでしょう、盛大に盛り上げてやりますよ!」
少女がアップテンポな歌を歌いだす。
それは心底楽しいという気持ちが直に伝わってくるような、気分を高揚させられるような歌声で、とても下手とは思えない。その歌声に最初は呆気に取られていた聴衆たちも次第にその歌声に飲まれて、酒場はさらに喚起に沸いた。

酒場で一通り騒いだ後、少女は気前のいい酔っ払いたちにその歌声を絶賛され、大いにトム探しを応援された。だが、最終的にそこに実のある情報はかった。
仕方なしに少女は町を抜け、とりあえず今日のところは帰ろうと自分の町へ足を向ける。我が家向かう森の中の道を、細やかな声で夕暮れ時にあった曲調を奏でながら歩く。
(今日は三つ町を回れた。…けど、情報はなし。)
ちなみに、トムが行方をくらませた数日前以来、近隣の町を回っているが、少しも彼に関する情報は得られていない。
「お嬢さん、何を歌っているのかね?」
あまりに通る声で歌うものだからか、すれ違おうとしていた反対側の道を歩く老人が声をかけてきた。
商人の恰好をした老人は人が一人、入りそうな大きな木箱を背負って歩いていた。その箱はどこか生々しい肉の匂いがする。何かの肉を運んでいるのだろう、と少女はあたりをつける。
「こんばんは、おじいさん。わたし、人探しをしているのですが、歌を歌っていたら相手が気付いて寄ってこないかなと思いまして。」
言っていることはどこか突拍子もない。
「人探しとな?」
しかし、老人はそれを気にせず普通に返した。
「ええ、おじいさんもご存じありませんか? 名前はトムといって、明るくて茶色い巻き毛をしているのですが…。」
先ほどと大体同じ事を老人に問う。
「……すまないが、知らんなぁ。それよりもお嬢さん、ここから先まだ進むのなら気をつけなさい。この森は賊が出るらしいから、暗くなる前に抜けることをお勧めするよ。それと、歌も目立つから歌わない方がいいだろうな。」
「ありがとうございます。おじいさんも気を付けて。」
そうして老人と別れ、少し歩調を速めて歩き出す。しかし、歌声が途切れることはなかった。

しばらく歩いていると耳がかさり、という枯葉を踏むような音を拾った。日はもう暮れかけているが、あともう少しで森の出口が見える、といったところ。
(嫌な予感はするけど、大丈夫)
先ほどの音のこともあり、不安に思ったのか心拍数が上昇するのを感じる。みるみるうちに色濃くなっていく夕暮れの赤と、それに負けじと増えてくる藍色の闇は森をなおのこと怪しく輝かせて少女に恐怖を根付かせる。少女は心の中で自らを鼓舞し、一気に森の中をかけ始める。怖いなら一気に駆け抜けてしまおうという算段。だが、走り出してすぐ、再び耳が大きく草木をかき分ける音を拾ってしまった。後ろを振り返ると、そこにはこん棒を大きく上に掲げた男の姿が見えて――それを振り下ろされると、視界がぶれてすぐさま真っ暗になった。



という、自分が殺される夢を見て、目が覚めた。体が金縛りにあったように動けない。動かそうとすると体の節々が痛んで、荒い息が漏れる。しばらくして体が少しずつ動かせるようになってきた。どうやら、昨晩森の中で眠ってしまったようで朝日が昇る草木のなかで横たわっていた。もちろん寝起きは最悪。
金縛りの名残か、歩くときにどこか足がうまく動かなかったが、歩くこと自体は可能だと感じ、歩みを再開する。こんな場所で一晩平和に眠っていたにも関わらず、山賊に襲われなかった奇跡に驚いたけれど、そもそもどこからが夢だったのだろう。
そう考えると、なんだか空恐ろしくなって自分を励ます意を込めて歌い出す。歌は力をくれる。そう信じているからか、次第に気分は上向きになってきた。依然足はうまく動かないけれど先ほどよりは幾分か楽な気持ちで進んだ。

「こんにちは。わたし、人を探しているのですが、トムと言って明るい茶色の巻き毛をした人を見たことがありませんか?」
町に入って最初にすれ違った親子に話かける。
すると、お母さんは少し眉をひそめて知らないと答えてくれた。
「あなた、大丈夫? なんだか声が変よ?」
そんなつもりはなかったので少し驚いたが、自分で変な感じはしないので大丈夫と返す。
歩みを再開し、歌を再び紡ぐけれどやはり違和感はなかった。

こんにちは。わたし、人を探しているのですが、トムと言って明るい茶色の髪をした人を見たことがありませんか?
次にあった人に聞いてみると怪訝な顔をされて、答えてもらえなかった。
最近歩く度に足が軋むようになってきていて歩くのも少し辛かったので、断られたことに少し気分が悪くなり、歌声が荒れた。

こんにちは、わたし、人を探しているんですが、トムと言う茶色の髪の人を知りませんか?
「なんだ、こいつ!変なうめき声を上げているぞ!?」
次に話しかけた子供たちはなぜか逃げてしまった。
人を見て失敬な、と思って歌声がまた荒れた。しかし、最近はなぜだか体が軽いので、歩みは少し早くなった。

こんにちは、わたし、人をさがしているのですが、トムという人を知りませんか?
「―――!!」
人が私に向かって石を投げた。
あまりのことに驚いて、気分が悪くなるよりも、そして怒るよりも先に悲しみが来た。
右目がぼやけて見えなくなる。石が当たったのか、それとも泣いているのか。
あまりのやるせなさに悲しい旋律を奏でながらそこから走り去った。

 誰かに尋ねて、石を投げられて、歌いながら歩いて、驚いては逃げられる。私は何もおかしいことをしていないはずなのに、追いかけまわされ、攻撃されることが増えた。
そんなことが当たり前になりつつあるときに、ついに足が動かなくなって地面に倒れこむ。足の不調は前々から感じていたがとうとう限界を迎えてしまったらしい。足の具合を見ようにも、実は目の調子もよくなく、視界がぼやける。音もよく聞こえていない。自分がどうなっているかもわからない。ただ確かなのは四肢を動かすことはもう出来そうもないくらい力が入らないことだった。否、力は入るのだが、なぜだか腕が上がる実感がない。
長旅の疲れか、理由なく追い回されることへの疲労か、体が音を上げているのが嫌というほどにわかる。
それでも、歌を歌って入れば来てくれるような気がして、逆に言えばそうすることしかできなくて、歌い続けた。もはや自分の声も満足に聞こえなかったけど。


ふいに、誰かがわたしに触れた。
その誰かに問うてみる。
こんにちは。わたし、人を探しているのですが、その人の名前も、性別も、性格も、外見的特徴も、性格も、何もわからないんです。
でも、わたしはその人に歌を届けてあげたくて歌を歌っているんです。
あなたは、知りませんか? わたしの探している人を。
(知っていますよ。そして、もうその声は届いています。)
何かは音を発しなかった。しかし、その声はちゃんとわたしの中に響いた。
(あなたは歌がお上手ですね)
その声に救われた気がしてもう一回口を開いた。開いているのかわからないけれど、音になっているかわからないけれど、それでも歌を紡いだ。
頬に暖かいものを感じたような気がして、わたしの視界から景色が消えて、意識も闇に溶けていった。



「博士、実験体106番もダメでした。繋がりの深いもの同士でつなげてみましたが、定着時間こそ伸びましたが、人としての機能はほとんどすぐに消滅していましたよ。」
実験体から回収した記憶蓄積チップの解析を終えてその報告をする。
すると隣の部屋から少女の記憶に出てきた老人が白衣をまとった姿でこちらに顔をのぞかせた。
「そうかそうか。…死者を蘇らせる、というのはやはり一筋縄ではいかないのう。」
私と博士は死者を蘇らせるという研究をしている。
いつの世でもその禁忌的な願いを叶えたがる愚か者は多くいる。
死んだ人間の肉体に、同じく死んだ人間の魂――と定義している脳の自我形成部位を移植、あるいは置換することによって、死者を生者として再現する。端的に言えばそれが私たちのやっている実験の概要だった。現段階では研究も進み、外見こそ違うが内面は生前のその人の人格に基づいた行動をする人間もどきの生成までは成功している。だが、
「死者蘇生よりもゾンビ作成のための研究になりつつある気がしますけどね…。」
その動きは生前のそれには明らかに及ばないし、人としての機能は母体が死体なだけにすぐに腐敗してしまう。防腐処理にも限界があるからこれ以上手を施すのは難しい。
 だが、止めるわけにもいかない。ここまで犠牲にしてきた死者の魂にかけて。何より蘇らせたい命のために。それに成果は確かに出ているのだ。なぜなら…
「博士。今回の実験体、肉体の方の自我が残っていたかもしれません。」
「ほう?」
「泣いたんですよ。正確には泣くために筋肉が動こうとした。実験体の魂の関与しないところで。肉体に使った、彼の意思だと思うんですよね。」
腐りかけた実験体とその肉体に残っていたかもしれない魂。
「だけどやっぱり虚しいものですね。」
実験体106番。博士が遠い親戚から譲り受けたという奴隷の少年の肉体に、博士が森で発見した死体の少女の脳の一部を埋め込んだ被検体。
ずっと探し人と一緒にいたにも関わらず、気付かず探し続けていた魂である少女。その歌をその軌跡を共にした肉体は何を思っただろうか。
「仕方あるまい。我々にできることは進むだけだからのう。」
「そう、ですね。」
だから彼らに鎮魂歌を送ろう。
彼女の歌声には到底届かない鎮魂歌を。


使用テーマ
・歌
・もう一度会いたい
・ゾンビ 
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第三十一回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2016.08.13(Sat) 12:00
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