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求めてはいけない

ぼんやりとした街灯の明かりの奥に見える一際明るいコンビニの蛍光灯。住んでいるアパートまであと五分なのだが、慣れた暗い部屋に帰るのは、今日は、先延ばしにしたい。まるで虫のように光に吸い寄せられた。


入った瞬間掛けられた、アルバイトの明るい声に身を縮める。何かを買っていかなければ。店に入ったからには何かお金を使わないといけないという生真面目な強迫観念。空腹を感じているわけでもなく、視線が商品の棚を上滑りする。
節約のため、外で飲み物を買わない習慣、デザートを探さない習慣、アイスの棚は見ない習慣。こんな時にも貧乏性が、わたしの行動を制限してくる。頼りなさげに目を泳がせる自分が場違いに思えて周りの人を盗み見る。視線を弁当の棚に固定させたサラリーマン。飲料のおまけについているペットボトルホルダーを見比べる女子高生。かがんで品出しを始めた店員。
わたしのことなど気に止めてないのはわかっているけれど、居心地の悪さから逃れるように棚の間に滑り込んだ。
友達から食べる?と差し出された記憶のある、見慣れたパッケージが並んでいた。チョコ、ビスケット、飴。消費税がなければワンコインで手に入る菓子たち。
その中で子供の頃の記憶に引っ張られ手に取ったものは、やはり軽い。頼りなさを感じてもう一袋。無駄遣いをしたくなってもう一袋。ヤケになりたくてさらに伸ばしかけた手は、さすがにつかむことはできなかった。かさばる、けれど片腕で抱えられる程度の、たった三つの袋たちを抱えているだけで十分な罪悪感をもつ私は、つくづく小さい女だ。


玄関の鍵をあけるときにも、いやに邪魔なコンビニ袋がかさかさ鳴る。玄関に倒れこみ、履くのも脱ぐのも面倒なサンダルを蹴りつける。今年の流行りである、編み上げのサンダル。
くるぶしの上に巻きつく紐が足首を華奢にみせるのでお気に入りだった。
出かけは一本一本緩めて履いていけたのに、今はそんな余裕がなかった。手を使わずに、足をがんじがらめにしている紐から逃れようとする。まるで駄々をこねるかのように、もがいていた。暗い天井を見ながら足に八つ当たりをする。
いくらやってもしっかりと足をつかまえたままのサンダルに怒りと悲しみがわいてきて、手に持っている袋を床に叩きつけた。ビニールと包装フィルムがガサガサと鳴っただけで手応えはない。
滲んできた視界をしばらく眺めた。


息を深く吸い体を起こす。ちょうちょ結びを解き、空白の気持ちでさっきまで散々蹴りつけたサンダルを脱ぐ。赤くなった足には幾つかの擦り傷ができていた。


台所に立ちコンロに火を点けた。一つの電気もついていない部屋で青白い炎だけが浮き上がって見える。コンビニで買ってきた三袋を全て力任せに開く。引き出しから一本竹串を出した。袋の中を探り指先で押しつぶされた塊を左手に持っていた竹串で突き刺す。右手を離すとまた空気を含んで元の形に戻っていく。私は無心で炎の上にかざした。

子供の頃、誰かの家で開かれたパーティのときに食べた、あの優しさを得たかった。あの甘さと柔らかさが恋しかった。

すぐさま竹串の先の白い塊に赤い光が取り付いた。傍観していると火はどんどん回っていきあっという間に黒くなった。
昔、私に手渡してくれた大人は、焦げないように動かし、火を消していてくれたのだろう。
しつこくちらつく明かりを吹き消し口に入れる。
腹がたつほどの弾力は消え、硬く、苦く、甘い。
炭で周りを固められた、とろとろの砂糖の、正体のない食感が無性に癪だった。

突き刺しては燃やし、燃やしては突き刺し、口の中に詰め込みながら繰り返す。
このまま壊れていたくて、拒否する口をこじ開ける。炭と、砂糖で、喉が辛かった。

戻しそうになるのをどうにかこらえながら、滲んだ視界で作業を続ける。

暗い部屋の中で青く照らされた私は、どんなに惨めな姿なのだろうか。

萎んではくれないかさばる想いを、このまま燃やしてしまえればいいのに。
夢見てしまう甘い希望を、苦味で閉じ込めてしまえればいいのに。
日に日に増えてきた思い出を、残らず飲み込んでしまえればいいのに。

もう二度とあなたを求めたくならないように。


また一つ、串刺しのマシュマロを火にかざす。



使用テーマ
・蛍光灯
・ペットボトルホルダー
・マシュマロ
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第三十一回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2016.08.13(Sat) 12:00
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