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《Z》OO

 夜の帳が下りた街は、昼間の賑やかな喧騒を束の間忘れてしまったかのように静まり返っていた。その静けさの中で、密やかに広がってゆく囁き声達の、特に集まるその場所。
――街の東側に在る、大きな動物園。この街における一番の観光名所と言って差し支えないであろうその場所では、夜が訪れるごとに、檻の中のものたちが茫とした囁きを交わしていた。
「……今日も、すさまじい数の客が来たな。」
 くすんだ金の毛をもつ彼は、檻に体を凭れかけながら、誰に言うでもなくそう呟いた。その言葉に、近くにいた、大きな体と灰色の毛をもつ彼が答える。
「休日、だからなあ。明日は、今日以上にやつらが押寄せるだろうねえ。」
 小さく苦笑しながら話す彼の言葉に、檻の隅で体を横たえていた、青い目を持つ彼女がため息を零した。
「想像するだけで、ウンザリね……。一日中、生活する姿を見られ続けることが、こちらにとってどれだけのストレスか、客や従業員たちは考えているのかしら。」
「考えている奴は少ないだろうねー。まあでも、逆に考えれば、生活する姿を見せるだけで最低限食わせてはもらえるんだ。他の奴らに比べれば、もしかしたら案外楽なのかもしれないよ?」
 遠い目でぼやく彼女に、夜に出された食事の残りをちまちまと食べ続けている、この檻の中で一番若い彼が割り切った笑顔で言う。しかしすぐにその表情を曇らせると、自らに出された食事を見つめながら、不満そうにぼやいた。
「ただ、毎日こうも肉に偏ったメニューを出されちゃ、さすがに飽きてくるよなあ……。確かに、肉は好きだけどさあ……たまには、少し違うメニューを食べたい気分の時だってあるし。」
 もー、と呟く若い彼を見て、くすんだ金の毛の彼がうんうんと頷きながら言う。
「お前は年齢が若い分、余計に、だな。」
「まあ、分かってるんだけどね……。こうなったら、飼育員に直談判してやろうかなぁなんて考えちゃうよ。」
「それは、多分無理だろうねえ。あちらに、こちらの言葉は伝わらないもの。近頃は、僕たちの言葉や感情を理解するための研究も盛んに行われているみたいだけど……まだ、実用できるレベルまで至ってるものはないようだし。」
 んんー、と大きな体を伸ばしながら、灰色の毛をもつ彼が力の抜けた声で言葉を返した。そんな彼の言葉を聞きながら、青い目の彼女が、相変わらず遠い目をして呟く。
「そもそも、あいつらが私たちを完全に理解しようなんてことが無茶な話なのよ。種が、違うんだもの。これは、どうすることもできないわ。この園でも、私たちの住んでいた環境の再現なんて言って、各ブースの形や条件を似せてはいるけれど……。所詮あいつらの考えた物、本来私たちが住んでた場所とは、根本的に違うしね。」
 彼女の少し切なさを含んだ声を聞き、くすんだ金の毛をもつ彼が、彼女の方へ顔を向けると言った。
「結局は、ここに来る客へ、いかに俺たちを効果的に見せるかって点に重点を置いた作りになってるからな。……ただ、それでもここでは、命の安全が確保されているってだけマシだろう。たとえ、一生飼い殺しの身だったとしても……他の連中の中には、製薬の実験に送られたり、野良化した奴らには、下手すりゃ殺処分されてるのだっている。」
 その言葉を受け、一番若い彼が、抑えられない憤りのにじむ声で呟く。
「俺らの命に対する、あいつらの扱いの差が理解できないよ。そうやって、命を命とも思われない奴らがいる一方で、ここでは俺らの子供が一人生まれるだけで、やれ名前を募集するだの、特設会場を設けるだの、取材が来るだのって大騒ぎだ。」
「小さな子供たちは、体も小さくて軽い分、ふれあいコーナーとやらに連れてかれて、客に抱き上げられたり撫でられたりしてるんだよねえ。僕は、ここに来たときにはもう成長していたから、経験しなかったけど……世がこうなってから生まれて、ここに連れてこられた子供たちは、本当に不憫だよ。」
 灰色の毛をもつ彼は、一番若い彼の横に来てそう言うと、深く重いため息をついた。そのため息に感化されるように、くすんだ金の毛をもつ彼が話を継ぐ。
「もっと不憫なのは、珍しい種族の奴らとか、見目のいい奴らだな。そういう奴らは、あいつらに個人的に飼われる可能性が高い。……地獄以外の、何物でもないな。想像しただけで……おぞましいよ。」
 吐き捨てるように言った後、彼は、小さな声で、ぽつりと呟いた。

「――俺たちは、いつから、こうなっちまったんだろう。」

彼の言葉に、檻の中全体の空気が、静かに重さを増しながら、少しずつ音を失っていった。冷たく凍りつきそうなその空気を、少しでも振り切ろうと無理に明るい声を出しながら、一番若い彼が言った。
「そのあたりについては、先祖様たちに問い詰めたいところだね! 本当に、こんな道しかなかったのですか、って――。」
 皆を気遣った彼の声に、固まった表情を少し解しながら、灰色の毛の彼がぼんやりと呟いた。
「定められて、いたのかもしれないねえ。それは、僕たちにはどうしようもないことだったのかもしれない。……でも、それを置いといたとして……あいつらは、結局僕らをどうしたいんだろうねえ?」
 んー、と間延びした声を出しながら、彼は何となく思いついたように、ぼそりと言葉を零した。
「……そもそも、ここで僕らの生活する姿なんか見て、何が楽しいんだろうなあ。」
「――今となっちゃ、俺らが自然に暮らしている姿なんて、見たことのない奴らが多いんだよ。珍しがってるんだ。この園にいる奴らだけが、この場所の楽しさについて、疑問を抱くんだろう。」
 くすんだ金の毛をもつ彼は、自分たちを囲い、外界との繋がりを遮断する銀の棒を見つめながら、静かに呟いた。
「俺も、この立場になるまでは考えたこともなかったよ。」

「この場所にとらわれた奴らの心中なんてさ……。」

§

 夜の帳は、徐々に昇りゆく太陽の光へ溶けるように消えてゆき、日を受けた涼やかな風が街中を通って行った。――夜明けである。
 昼間の園内は、昨晩彼らが予想していたように、溢れんばかりの客でごった返していた。その中で、やたらと肩幅のしっかりとした客が一人、人ごみに流されぬようしっかりと道を踏みしめながら、園内を見て回っていた。彼は、一度この園へ家族と来て以来、その魅力に憑りつかれてしまった一人だった。近頃は、時間を見つけては、一人でも気にすることなくここを訪れている。
 のんびりとそれぞれの生活を営む檻の中のものたちを見ながら、昼頃、従業員たちが行う餌やりの様子を見つめていた彼は、ふと気づいたことを呟いた。
「それにしても、こいつらって、餌食う量少ないよなあ……。まあ、餌代がかからなくていいだろうけどな」
 園側の負担も考えながら、彼は小さく苦笑して、その場を離れる。
 しばらく園内を満喫した彼は、最後に園の入り口付近を一通り見て帰ろうと思い、そちらへと足を向けた。その道の途中、昨晩囁きを交わし合っていた彼らの檻の前を通った時、彼はふと立ち止った。檻の中で、どこか遠く、空虚な目をしている彼らを見つめながら、感慨深い声でそっと呟く。
「……昔は、ここの良さなんてこれっぽっちも分からなかったけれど、確かにこれは面白いよなあ。ほんと、よく動物園なんて考え付いたものだよ。」

「――――人間ってやつはさ。」

 彼は、毛に覆われたその手で檻の外についたプレートに触れると、そこに書かれた文字を見つめ、笑った。

 ――《生息地分類:アマリシア大陸  哺乳綱 霊長目 ヒト科 ヒト属 ヒト ――通称:人間》。


使用テーマ
・異世界
・終末
・届かぬ声
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第三十一回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2016.08.13(Sat) 12:00
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