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オオカミ少年

   オオカミ少年

本作品はしろずきんの裏ストーリーです。著者としてはしろずきんを先に読むことをお勧めします。

 むかしむかしあるところに嘘吐きの少年がいました。彼はいつもオオカミが来たと言い、村の人々を困らせていました。そんな彼を村の人々はだんだんと無視するようになりました。
 しかし、ある日、羊の番をしていた少年のもとに本当にオオカミがやって来て、羊を食べ始めました。
 そのことを村の人に伝えますが、誰も相手にしてくれません。最後には羊は一匹もいなくなってしまいました。
 それを知った大人たちは、今度は羊を逃がしたことをオオカミが来たと誤魔化したのだと思い、少年を叱りつけました。
 少年がいくら、本当にオオカミがやってきたのだと言い張っても、みんな嘘つきだと彼を罵りました。
 そんな彼に村の人々は愛想を尽かしました。
 少年は一人ぼっちになってしまいました。誰も相手をしてくれません。
 その日の夜、村はずれの丘で泣いていると、夜空に光がともり、途端に少年の視界が覆われました。眩しさに慣れ、目を開けると、目の前には美しい女性が現れていました。
 突然のことで、呆然としている少年に、その女性は話しかけます。
「私は女神です。あなたの行いは全て見ていました」
 少年は驚き、言われたことを理解すると、すぐに涙を目に浮かべ、泣いて許しを請いました。
「あなたのしたことは許されることではありません。しかし、チャンスをあげましょう。先のことを真実に変えてあげましょう」
 少年がすがるような目で女神様を見上げました。
「そうすれば、あなたへの嫌疑は少し晴れるでしょう。その後は自分で償いなさい」
 少年は喜び、首を上下に振り、女神様に感謝の意を告げました。
「ただし、あなたには試練を与えます。それでも構いませんか?」
 それでもお願いします、と頼みました。
「分かりました」
 すると、再び視界が真っ白になり、目を開けると女神様は消えてしまいました。
 自分は夢でも見ていたのかと不思議に思いながら、村に帰ると遠くで叫び声が聞こえました。
「オオカミが出たぞーーー」
 その瞬間、少年はさっきの出来事は夢ではなく現実だったのだと思いました。
「女神様が僕にチャンスをくれたんだ」
 それから続々と村人が出てきました。一部の大人は棒などの武器を構えています。
「どっちだ!」
「あっちだ」
 その人の指先は少年の方を指しています。
「僕の後ろにいるの?」
 すぐ後方にいるというのは恐怖でした。しかし、振り向くとそこには草村しかありません。
 少年は不思議に思いました。後ろには何もいません。でも、村人たちは確かにこっちを見、警戒しながらこちら側にじわじわと歩を進めてきます。
 少年は怖くなり、避難しようと村の方に近づくと、
「こっちに来たぞ!」
「えっ」
 もう一度、後ろを振りまきました。それでも、何もいません。再び前を向くと、すぐ足元に棒が振り下ろされました。後、一歩踏み込んでいたら、大怪我を負うところでした。
「何をするんだよ!」
 少年は振り下ろされた大人に向って言いました。そこであることに気づきました。
(おじさん、こんな背が大きかったっけ?)
 そういえば目線も低い気がします。
 そのままぼうっとしていると、再び棒が振り下ろされました。
「わぁ!」
 少年は後ろに飛びずさり、四本の足で着地しました。
(四本?)
 そこでようやく少年は自分が四つん這いになっていることに気づきました。それだけではなく腕は毛むくじゃらになっています。腕だけじゃない。足も体も全身に茶色の毛が生えています。
(まさか)
 村のみんながオオカミと呼んでいるのは少年自身のことでした。
「僕だよ、みんな」
 しかし、何を言おうとしてもただ吠えるだけになってしまいます。
「こいつめ。さっさとここから去れ」
 大人たちは棒を振り回してきた。
(危ない危ない)
 少年は後退ることしかできません。

バンッ!!
 足元に銃弾がめり込みました。
(じ、銃?!)
「ちっ。外したか。次は」
村の猟師さんたちが銃を持ってきました。その中でこちらに銃を向けて発砲したのは―――――――
(父さん)
 少年の父親でした。
「父さん! 僕だよ、僕!」
 しかし、そんな言葉が伝わることはありませんでした。傍目には吠えているようにしか見えません。
「まだ抵抗するのか」
 お父さんは銃を再び構えました。
「父さん……。くそ――」
 少年は諦め、今はとにかく逃げることに決めました。すぐ後ろの森に逃げ込み、茂みに身をひそめるようにして走っていきます。
 少年の逃げる後方からは猟師さんたちの足音と銃声が聞こえます。少年は振り向くこともせずにひたすら走り続けました。
 どれほどの時間を逃げたのか、分からないくらい走り続け、少年が気づくころには日が暮れ始めていました。
「これからどうすればいいんだろう」
 ようやく落ち着いて考えることができるようになりました。自分自身がオオカミになってしまったこと、今いる場所がどこなのか、これからのことについて。
 そんなとき再び女神様が少年の目の前に姿を見せました。
「ああ女神様、一体どうして」
「その姿で過ごすことがあなたの試練です。いずれ時がくれば、もう一度あなたの前に現れます。その時にあなたの償いが認められれば、元の姿に戻してあげましょう。それまで必死に生きなさい」
 言いたいことだけ言って、女神様はとっとと消えてしまいました。
「待って、女神様…。償いって何をすれば」
 ぐーーーーーー
 少年はとりあえずお腹がすいたので、ひとまず食糧を探すことにしました。
 少年は落ちている木の実などを食べ始めました。しかし、いくら食べてもお腹は満たされません。かと言って、昆虫を食べようという気にもなりません。小動物を殺して食べることもできませんし、そもそも捕まえる技量がオオカミに成りたての少年には備わっていませんでした。
 仕方ないので、その後も木の実や水で飢えをしのいでいましたが、数日後ついに限界が来てしまいました。
 空腹に疲弊が少年の体から気力を奪っていきました。もはや、足を一歩も動かすことができませんでした。
「結局、僕はこのまま死んでしまうのかな。嘘をつくだけでこんな目に遭うなんて想像してなかったな」
少年の意識も段々と遠のき、生への未練を諦め、目をつぶって楽になろうとした、その時でした。
「そこの茂みにいるのはどなたですか?」
 女の子の声が聞こえました。それに返答する力も残されていません。返答がなかったのにも関わらず、気になったのか女の子が段々近づいてくる足音がしました。
 茂みのすぐそこまで来ると、顔だけを覗かせてきました。
「あら」
 その女の子は白い頭巾がよく似合う可愛い女の子でした。少年の姿を見た白頭巾の女の子は始めはびっくりした様子でしたが、弱り切っているところを見ると、怖がるどころか心配そうにこちらをじっと見つめてきました。
 近寄って来て、声を掛けてきました。
「大丈夫? どうしたの、迷子になってしまったの?」
「お腹が減ったよ。もう疲れてしまったんだ」
 しかし、そんな少年の嘆きも実際にはクゥンという鳴き声にしかなりません。
 でも、そんな鳴き声を少女なりに理解したのか、食べ物を分けてくれました。
「そうだわ。おばあちゃんに持っていく食べ物を少しだけ分けてあげましょう」
 そう言って、少年の目の前にパンとお肉を置いてくれました。
「さぁ、どうぞ」
 少年は感謝の言葉を述べることもなく、目の前のパンにがっつきました。久しぶりにまともな食事でした。お肉は生でしたが、そんなことも気にせずに少年は食べ進めました。
 その様子を白頭巾の少女は笑顔で見守っていました。
「もうちょっとゆっくり食べなさい。喉に詰まらせてしまうわよ」
 それでも、口を休めることもなく、一気にたいらげました。とりあえず動けるまでは回復をすることはできましたが、まだ食べ足りない少年は目で少女に訴えることにしました。
 少女も察したようでしたが、これ以上は分けてはくれないようです。
「ごめんなさい。これ以上はあげられないの。私がおばあちゃんに起こられてしまうわ」
分けてもらう身である以上強くは言えません。もとから、通じる言葉はないのですが。
「仕方ないか。でも、食べ物を分けてくれてありがとう」
 そう言っても、少年は少女に向かって、そう伝えました。それでも少年はこれからも同じことを繰り返すのかと思うと気が重たくなりました。
 少年が今後について考えていると少女が言いました。
「そのうち、また食べ物を持ってきてあげるわ。それまで辛抱してちょうだい」
 それを聞いて、少年は安心と共にとても喜びました。意識してないのに尻尾までぶんぶん振り回しています。
「それじゃあ私はもう行かなくちゃ。いい子で待っててね」
 そう言い、白い頭巾の少女は行ってしまいました。
 少年は姿勢を正して、お座りの体勢になりました。少女が一度振り向き、手を振ってきたので、それに少年も尻尾を振って応えました。それを見た少女は微笑み、去って行きました。
「可愛い女の子だったな。それに優しかった。こんな姿になっても優しくしてくれる人もいるんだな」
 久しぶりの人の優しさに触れ、心が暖かくなった少年でした。今は少女が再び来ることを信じて、待つことにしました。

 それから白頭巾の少女は頻繁に少年のもとに食べ物を持ってきてくれました。それも肉を中心に持ってきてくれました。鳥や豚、他にも少年がいままでに口にしたことない食べ物を持ってきてくれました。それをおかげで走り回ることが出来るまでに回復をしました。
 そして、少年と少女はよく遊んだり、話をしました。話と言っても少女が一方的に話すだけなのですが。少年もできるだけ、吠えたりして相槌を打ちます。
「おばあちゃんったら私にばかり意地悪するの。本当に嫌になっちゃう」
など、おばあちゃんに関する愚痴をよく聞かされていました。
(こんなにいい子なのにそのおばあさんは何でこの子のことをそんなに気に入らないのだろう)
 少年は不思議に思いましたが、特に心に留めませんでした。そんなことよりも少女と過ごし時間がオオカミなった少年にとって、何よりの至福でした。
 そんな時でした。
 少年はいつもの場所ではなく、森の入り口で少女が来るのを待っていました。彼女の姿を確認し、森に入った所で飛び出して、彼女のもとに駆け寄りました。足元にじゃれ付いたりしました。
 少年も徐々にオオカミとして生きることに慣れ、人間の体に戻ることもほとんど考えなくなっていました。
「こんにちは、オオカミさん」
「早く遊ぼうよ。待ちくたびれたんだから」
「ごめんなさい。おつかいを頼まれているの。すぐに済ませてくるから、ちょっと待っていてね」
 それを聞いて、少年は大人しく待つことにしました。
「いい子ね。じゃあ、行ってくるわ。すぐに戻ってくるわね」
 そう言って、小走りにかけて行きました。
 少女が行ってから、少し経って、待つことに飽きてしまいました。
「まだかな。そうだ。彼女を迎えに行こう。ついでにいつも聞かされているおばあちゃんの姿でも見てやろう。一体どんな悪い人なんだ」
 そう決めた少年はいつも少女が向かっている先を追っていきました。多少道に迷いながらも少女のおばあさんのだと思われる家を見つけることができました。
 近づいていくと、何やら騒々しい音が聞こえました。物が割れる音も聞こえてきました。
「一体、何だ!」
 ドアが半開きになっていたので、そこから入りました。
 まず目に入ってきたのは、少女をぶっているおばあさんの姿でした。部屋の中もあれてしまっていました。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
 少女はひたすら謝り続けていました。一方でおばあさんはそんなこと気にもとめず、言葉にならない声を発しながら、少女を物や手で叩き続けています。
「やめろーーーーー!」
 少年は我慢ならず、おばあさんのお尻に噛みつきました。
「ぎゃあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁーーーーーー!」
 おばあさんの叫び声が部屋の中に響き渡りました。少年は噛みついたまま離しません。おばあさんが痛みにのたうちまわります。
「なんだい! 痛い痛い! 一体なんなんだい?!」
 突然のことでおばあさんも少女も何が起きているか分からない状況でした。その中で少女は少年のオオカミの姿を見つけました。
「オオカミさん!」
「オオカミだって? なんでこんな所に。ええい、いい加減に離しな!」
 おばあちゃんは思いっきり少年を叩きました。
 さすがに少年は耐え切れずに口を離してしまいました。
「彼女から離れろ! でないとまた噛むぞ」
 その言葉にはならなくてもその覇気は十分に伝わりました。その姿を見たおばあさんは腰を抜かしました。
「ひぃあゃ」
 その隙に少女は立ち上がり、真っ先にドアへと向かいました。
「オオカミさん! こっちよ」
 その声の方を向くと、少女が扉の方に逃げていました。少年もその後に続きました。一人と一匹はそのまま振り向きもせずに家から離れていきました。
 しばらく走った後、足を止めた少年と少女は息絶え絶えになっていました。少女の方は服も汚れたり、所々破けてしまいました。その白い肌にも赤い線が見えていました。
「大丈夫、オオカミさん?」
「大丈夫だよ」
 そこで落ち着きを取り戻した少年は気づきました。彼女のお気に入りだった白い頭巾がなくなっていました。
 続いて少女も頭から頭巾がなくなっていることに気が付きました。
「あら、私の白い頭巾がないわ。逃げている最中に落としてしまったみたいだわ」
 少女は残念そうにしていました。
「どうしましょう? お母さんからもらった大事なものだったのに。でも、もしかしたら近くにあるかもしれないわ。オオカミさんも探してくれる?」
「もちろん」
 二人は少しだけもと来た道を引き換えしました。でも、少女はまだおばあさんのことが恐ろしいようで、ほとんど戻ることができず、足をとめてしまいました。それ以上は行けないそうです。
「残念だけど探すのは諦めましょう。おばあちゃんの家に落としていたら、もう取り戻せないもの。それにね、これでオオカミさんのことがばれてしまったわ。おばあちゃんが狩人さんに知らせてあなたを殺しに来てしまうかもしれないわ。だから、あなたは早くここから逃げなさい。遠くへ逃げるのよ。わかった?」
「そんな僕はまだ…」
「私も寂しいけれど、オオカミさんと遊べたのは楽しかったわ。それじゃあ、私も行くわよ。おばあちゃんのことをお母さんにも言わなきゃいけないし、今すぐここを離れるのよ。これでお別れよ。バイバイ」
 お別れの言葉を告げた少女は村の方へ歩き始めました。
(僕はまだ独りで生きていかなきゃいけないのか)
少年は残念に思いましたが、命には代えられません。少女の言うことに従うことにしました。少女が一度振り返りました。その顔には不安や心配の表情の他に違う何かを感じました。
 でも、少年はすぐにその場を後にしました。
 森から離れるよう言われた少年ですが、そうは言われても行く当てなどありません。それに土地勘もほとんどありません。少女と遊ぶ場所しか知りません。
少年はぶらりぶらり歩いていました。そうしていると、おばあさんの家に戻って来てしまいました。
 少年は先ほどのおばあさんの形相を思い出すと恐ろしくもありますが、どんな様子になっているか気になりました。
 さっきまでとは打って変わって静まりかえっています。家に近づいていくと、中から人が出てきました。
(何で……)
 出てきたのは帰ったはずの少女でした。その頭にはさっきまでなかった白い頭巾をかぶっています。少女はそのまま走り去りました。
 おばあさんとは喧嘩していたのではないのか。争っていた声などは一切に聞こえませんでした。
 気になって、開いている扉を覗くと、そこには血塗れになって倒れているおばあさんがいました。ピクリとも動きません。すでに死んでしまっています。
「彼女がやったのか。一体どうして。やっぱり頭巾を取りに戻って来て、口論になったのか」
 少年は焦ります。このままじゃ、少女が殺したと疑われるかもしれない。もしかしたら押してしまったはずみでたまたま死んでしまったのかもしれない。
 そうに違いないと思った少年は何かをできることはないと考えると、この死体をどうにかするしかないと考えました。でも、方法が思いつきません。
 そのとき少年の目の前に再び女神様が現れました。
「女神様。助けてください。僕は一体どうすれば」
「前に言った時が今です。あなたが正直に村の人たちにこの真実を告げるならあなたを人の姿に戻しましょう。しかし、その場合、彼女は間違いなく不幸な人生を送ることになります。生きている間ずっとです。でも、あなたが黙っていればそのようなことはありません。さぁ、彼女の罪を告白するか、しないか、選びなさい」
「僕は……」
 ここで正直に話せば、元の生活に戻れるかもしれない。それに彼女は悪いことをしたんだ。それを告げるのは当然のことだろう。頭ではそう分かっていますが、不思議と少年の心は決まっていました。
「僕は…誰にも言いません」
「では、その姿のまま一生を過ごすと」
「はい。慣れてくれれば特に不自由もないし、それに…」
 女神様は了承し、うなずきました。
「あなたがそう決めたなら何も言いません。自分の信じた道を行きなさい」
 そう言うと、少年の目の前は白い光に覆われ、あまりの眩しさに目をつぶってしまいます。少年が目を開けると、もう女神様の姿は消えていました。
(それに彼女だけが僕を助けてくれた。今度は僕が助ける番だ。僕が誰にも言わなきゃいいんだ)
 少年は彼女を守り続けると決意しました。それともう一つある決意しました。
(この死体を処理するには―――――――)
 ゴクリッ。
 少年は口先をおばあさんの亡骸に向けました。


 それから少年は少女の言いつけに逆らい森に残り続けました。村の様子も遠くから窺ったりしていました。少女の姿も時々見かけましたが、以前の生活となんら変わりないようです。そのことに少年は安堵しました。
 一方で、森に異変が起きていることを少年は感じていました。やたら、鳥やネズミといった小動物の遺体があるのです。しかも、どれも腹を破られたり、残忍な殺し方をされていました。
 動物ではなく、人の仕業だと少年は思いました。でも、行われている現場を目撃したこともないので、なんとなくの推測でした。
 ただ、獲物を仕留める必要がなく、有難く食料として有用していました。おかげで、少女に食べ物をめぐんでもらわなくても飢えなくなっていました。
 そんなある日、少年の身に危険がせまってきました。朝早くから少女の村の猟師たちが少年を駆除にしに来たのです。
「村の近くに頻繁に顔を出していたのが不味かったかな」
 銃を撃ちながら、追ってきます。少年は必死に逃げる中で、自分の村でのことを思い出しました。
「あのときは混乱していて、ただ怖かったけど、今は!」
 もちろん、心の中に弾が当たったらという恐ろしさがありました。でも、逃げるその足には力がみなぎっていました。うまく身を隠しながら猟師たちを翻弄していました。
 しかし、夕方になってくると、流石に体力がなくなってきました。ぼろぼろになりながらも逃げていましたが、とうとう足に一発かすってしました。たいした傷ではありませんが、力尽きそうな少年には大きな痛手です。
「ここまでか」
 半ば、諦め始めた少年は覚えのある匂いを感じました。
「この匂いは、彼女のものだ」
 足を引きずりながらも匂いを辿っていくと、そこには猟師たちの方を向いている少女の姿を見つけました。どうやら少年のことを心配して駆けつけたようです。
 少年はできるだけ脅かさないように少女の服を引っ張りました。
 少女は驚いて振り向きました。少年の姿を確認すると安心したようでした。
「オオカミさん、無事だったのね」
「まぁなんとかね」
 少女は少年の足の傷に気づきました。
「まぁ大変。怪我をしているわ。弾がかすってしまったのね。もう少し我慢してね。すぐに手当してあげるから」
 少女は少年の姿を抱きかかえました。そのまま、ゆっくりと距離を取った後、走りだしました。
 少年は揺れる少女の腕の中で先ほどまでの緊張感から解き放たれ、全身から力が抜けてしまいました。安心して、少女に身を任せました。
 それから少女は少年を部屋まで連れて行き、傷の手当をしてくれました。
「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
 傷には沁みましたが、じっと大人しくしていました。手当を終えた後、寝床も作ってくれました。少年の身も心もかなり回復しました。
 それから少女は少年に言いました。
「これからはとりあえずここで過ごしてね。でも、ここから出たりしちゃだめよ。もしお母さんにばれたりしたら、私も怒られてしまうし、あなたも殺されてしまうのだから」
「分かったよ」
 すると、部屋の外から女性の声が聞こえました。
「しろちゃん、ちょっと手伝ってくれる」
 どうやら彼女の母親のようです。しろちゃんとは少女のことだろう。
 少女は返事を返した後、再び少年に向き直り言いました。
「それじゃあ、ここで大人しくしていてね。後でご飯を持ってきてあげるから」
 そう言って少女は母親のもとへ行きました。
 少女が去った扉に向かって少年は言葉にはならないありがとう、を言いました。
 そして、朝からの疲れが溜まっていた少年は暖かい部屋の中で、眠りに落ちていきました。


 少年が目を覚ましたのは夜中でした。目の前にはパンが置いてあるのが陰で分かりました。少女が置いてくれたものだと判断し、静かに食べました。
 食べ終わって、再び眠りにつこうとしても、なかなか眠れません。むしろ目が冴えてしまっていました。かと言って、出歩くわけにもいかず、ぼうっとしていました。
 すると、突然目の前の月明かりが遮られました。少女が起きたようです。そのまま部屋の外に出ていきました。
「こんな夜中に何しにいくのだろう」
 少年は好奇心からこっそり彼女の後をつけることにしました。部屋を出ると、他の部屋の明かりがついているのが見えました。その部屋に少女は近づいていきました。その後に続きます。部屋の前で少女は立ち止りました。
 少年も足を止めます。少女は部屋の中の様子を窺っているようです。中にはおそらく母親がいるのでしょう。
 もう少しだけ少年が近づくと声が聞こえました。
「…にをしているのかしら? あら、こんなところに赤いシミが…………
「パクリ」
 と言って、少女が突然部屋に入り込みました。
「ビックリしたぁ。どうしたの、しろちゃん。こんな夜中に」
「喉が渇いたから水を飲みに来たの。そしたらお母さんが起きていたから、驚かそうと思って。ごめんなさい」
「そう。早く寝なさいね」
 少年は母と子のやり取りをドアの隙間から眺めていました。自分にもあった情景が頭に浮かび懐かしく感じました。
「そうだ。ちょうどよかった。最近、服を汚しすぎよ。頭巾だって、前みたいな白くないじゃない。少し黒くなってしまってるわよ」
「ごめんなさい」
「今日も汚してきて。この赤いシミだって、これ血じゃないの?」
「そうよ」
 平然と少女は言いました。
 母親はすぐに心配した様子になりました。
「どっか。怪我してるの? 見せなさい」
「私は大丈夫よ。それより大丈夫? お母さん」
「? お母さんはど…こ……も? あ……れ………?」
 少年は少女の母親がゆっくり崩れ落ちていくのを見ました。その体からは赤黒い液体が広がっていきました。
 少年は目を見張りました。いつ間にか少女の手には血の滴る包丁が握られていました。
「ごめんなさい、お母さん」
 三度目の謝罪の言葉を少女は述べました。
「どう…し……て?」
「疲れたの。いい子の振りするのを。誰にでも笑顔の優しいしろずきんちゃん。そんなきれいな心の人いるわけないのに、誰も彼も仮面を被って生きているのに、そんなことに気づきもしない。私だって黒い部分を持ってる。でも、曝け出せない。出せなかった」
 少年は少女の闇に驚愕しながらも気づきました。すでに母親が息絶えていることに。
 しかし、少女はそんなことに気づきもせずに口を止めません。
「めんどうだったの。ある意味おばあちゃんの方がよかったわ。全部本音で接してくれたから。でも、乱暴なとこは嫌いだったわ。そんなときにね」
 少女の笑みを浮かべました。少年はじっと耳を傾けています。
「オオカミさんが現れたの。本当はそんな危険な存在すぐに大人に言わなくちゃいけない。でも、黙っていたわ。なんだか、ちょっとだけ悪いことをしている気分になったの。それに自分だけの秘密。初めてのどきどきだったわ。最初のうちはそれだけで十分だったけど、ちょっとずつもの足りなくなっていったの。
 で、今度はおばあちゃんが本気で私を痛めつけてきた。オオカミさんのおかげで助かったわ。でも、私の気は納まらなかった。頭巾も取り戻したかったから、仕返しに家に戻ったの。おばあちゃん、まだ腰を抜かしていたから、思いっーきり突き飛ばしたの。そしたら、きれいに机の角に頭ぶつけて動かなくなったわ。そのときは怖くて、逃げ出したけど、少しずつ他の命を自分が支配している気分になったの。おばあちゃんのこともばれなかったし、もう一度だけ生き物を殺したくなってみたの。始めは虫、次にネズミ、それから小鳥。そうすると私の何かが満たされていくのを感じたのよ。簡単にいうと、楽しかったの」
 少女の顔は少年がかつて遊んでいた頃の笑顔となんら変わりのないものでした。だからこそ、少年はショックで愕然としていました。それでも少女は一人語りを続けます。さらに次の言葉が少年に追い打ちをかけます。
「最近はオオカミさんのことが噂になっていたし、犯人はオオカミさんということになってくれるだろうとも思っていたし、気にせずにできたわ。いざとなれば、オオカミさんを差し出して…」

 キィ

 少年はあまりのショックにドアによりかかってしまい、扉が動いてしまったのです。
 少女の頭だけがこっちをぐるんと向きました。その顔はさっきまでの楽しそうな表情はなく、無表情の面が張り付いています。何も言わず、ただ扉をじぃーと凝視しています。
 幸いなことに少年の姿はまだ見られていません。少年は一歩一歩ゆっくり少女の部屋に戻ろうとします。
 続いて少女がこちらに向かうのが視界の隅に入りました。少年は急いで戻りました。そして、元いたベッドの下に潜り、眠ったふりをしました。

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ……

 少女が近づいてくる足音がします。ベッドのすぐ横、少年の前で足を止めました。そのまま少女はじっと動きません。少年は身動きできません。体が縛られたように固まっています。
 少女はこちらに声をかけることもなければ、覗きこともせずにベッドに入り、寝息を立て始めました。
 少年は今すぐにでも逃げたかったですが、少女が完全に眠りに着いたと思えるまでじっとしていました。
 翌朝、日が昇り始めるころになって、ようやく少年は動き出しました。少女が寝静まっているのを確認すると部屋を飛び出し、森に逃げ込みました。
「女神様、女神様。僕が間違ってました。今すぐ彼女の罪を言いますから。僕にもう一度、もう一度だけチャンスを」
 そんな声が届くはずもなく、何の返答もかえってきません。
「くそっ」
 少年は闇雲に森の中を駆けることだけしかできませんでした。
 しばらく逃げるとおばあさんの家に辿り着きました。一先ず、ここで休憩することにしました。奥の椅子の陰で寝転がりました。
「オオカミさんいるの?」
 少しだけ休むつもりが、ついうとうとしてしまいました。少年の意識が少女の声によって引き戻されました。昨日までは安らぎを与えてくれたその声も今では恐怖以外何物でもありません。
 少女がちょうど家の中に入りこもうとするところでした。ゆっくり一歩ずつ入ってきます。
 そして、奥の方に入っていき、家具の後ろなどを探し始めました。
「まだ、ばれてない。今なら…」
ガタンッ!
「しまった」
 椅子に足を引っ掛けてしまいました。
「仕方ない。このまま逃げるしか―――」
 ダッシュで家を飛び出しました。速度を緩めることなく、森の中を駆け抜けていきます。体にひっかけて、傷を作ってもお構いなしです。
「私よ! どうして逃げるの! 待って!!」
 後ろから少女の声が聞こえます。
「待っていられるか」
 全身の力を振り絞って逃げます。すると、茂みを抜けた先で猟師たちに鉢合わせしてしまいました。
「しまった」
「オオカミだ。オオカミが出たぞ」
 猟師たちはすぐに猟銃を構えました。
「くそ」
 逃げる方向を変えようとしたときに少女の姿が目に入り、一瞬足がすくんでしまった、その瞬間――――――
バンッ
「ぐはっ」
 銃声が森に響きました。少年の体は吹っ飛び、木に打ち付けられました。少年の体は血で染まり、手足を動かす力もありませんでした。
「僕はこのまま死んでしまうのだろうな」
 少年はもう無理なことを悟りました。
「オオカミさん!!」
 少女は大声で叫び、少年のもとに駆け寄りました。
 すると、すぐに猟師さんたちもやってきました。
「こら、しろずきん。危ないから近づくんじゃない。まだ息があるかもしれん」
「違うわ。このオオカミさんは何もしていないわ。私と遊んでいただけなのに」
「それでもオオカミはオオカミだ。危険な生き物だ。今は子どもだから良かったものを。成長したらどうなるか分からん」
「でも! でも! オオカミさんは、この子は大事なお友達だったのに…。大事なおと…もだ…ち……。わた…しのだいじ…な……お…も……ち…ッ…」
掠れた少女の声もすぐ近くの少年の耳にはしっかりこう聞こえていました。
「私の大事な、お・も・ち・ゃ」
 少年の見た少女は赤黒い頭巾をかぶった悪魔に見えました。しかも、その後ろには女神様の意地悪い笑顔が見えました。
「僕はあの時、彼女の罪を告白すればよ…かったの…か……な」




「馬鹿な子」
                       END
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第二十九回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2015.01.06(Tue) 13:38
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