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あかさきさん

   あかさきさん


 ――どうしてこんなことに。
 ゆるいパーマのかかった栗色のショートボブの自分――大神の姿が化粧台に映る。引き出しから化粧品を出し、自らの顔に理想の女性を描いていく。描き終わる頃に目の前にいたのは自分とは全く違う顔の女性。
 よし、と一つ気合を入れて化粧台の前から立ち、姿見の前へと移動した。いくら生まれつき線が細いと言っても、体のラインが出る服はあまりよろしくない。ゆったりとしたワンピースの上にカーディガンを羽織る。
 くるりと鏡の前で一回転。
 目の前にいるのは何処から見ても美少女。大丈夫と、目の前の少女に対して言葉を投げかけた。
 そして、『少年』は赤崎の来宅を待った。

 きっかけは数日前のことであった。
「ねえ、この娘だあれ?」
 赤いニット帽を被った少女――赤崎の手にあったのは大神の携帯電話。どうやらトイレで席を立っている間に大神の携帯を勝手に弄っていたようだった。
 勝手に携帯を弄るな、と注意をしたいところではあった。抑、この女ときたら携帯に限らず大神のものを本人に断らずに勝手に使ったり、食べたりするような女なのである。いい加減にその癖を直せ、と言いたかった。
 しかし、そんなことを言っていられないようなものが自らの携帯電話の画面に映しだされていたのである。
 ゆるいパーマのかかった栗色のショートボブ、不自然のないようにメイクした顔。紛れも無く、女装した自分の顔であった。
 普段から携帯電話を勝手に触る奴がいたのだから、内部ストレージには残さないように気をつけていたのだが、どうやらうっかり消し忘れてしまったらしい。
「どうしたの? 顔色悪いよ?」
 ぐい、と赤崎は顔を覗きこむ。青い顔のまま固まる今の大神の姿を見れば、だれでもこんな反応になるだろう。
「い、いや別に……」
「まさか……浮気?」
「いやいや、そんなわけないだろ」
 自分と浮気なんてできる訳がない。
「だよね。知ってた。大神くんはそんなことしないもんねー」
 赤崎はにかっと唇を三日月のように曲げる。
「じゃあ、この娘誰……?」
「えっと……」
「待って、当てる」
 そういうと彼女は画面をじっくりと眺め始めた。そのうち首を捻り、しばらくしてはっとした顔になり、大神の顔をじっと見つめる。
「……何?」
 大神のその言葉に返答はせず、画面と顔を交互に見始めて、一言。
「なーんか、パーツパーツが大神くんに似ている気がするんだよね……」
「そうかな?」
 吹き出す汗が止まらない。鼓動は大きく速くなり、全身が燃えるように熱い。
「まさか……」
 ごくり、と大神は唾を飲む。
「……お姉さん?」
「……はい?」
 自分の女装した姿だと宣言されるとばかり思っていた大神は気の抜けた返事をしてしまった。
「違うの? 結構自信あったんだけど……」
 この時大神は思った。――乗るしかない、と。
「そうそうそうそうそう! この人は僕のお姉ちゃんだよ」
「やっぱりねー。似てると思ったんだよ」
「うん。よく言われる」
「姉弟して綺麗な顔しやがって、羨ましいなあ」
「いやいや……」
 こうして話を合わせていれば、この難を逃れることができるだろうと彼は思っていた。
「じゃあさ……」
 ――しかし。
「今度会わせてよ」
「……へ?」
「この写真さ、撮ったの大神くんの家でしょ? しかも撮影した日付が昨日だし、こんな何もない平日のど真ん中ってことはお姉さんも一人暮らししてないってことでしょ? じゃあ、会えるよね」
 いつもは何処か抜けているところがあるくせに、こういう時ばかり赤崎は鋭いのである。
「今度お姉さんのいる日教えてね」
「え、ちょっと……」
「きーまり! 楽しみだなー」
 半ば強引に、架空の姉を紹介する予定を立てられてしまったのである。

 そして、今日がその日。
 何度も断ろうとした。だが、一度決めたことは頑として変えないのが赤崎である。別の予定が入ったと言っても代替案を出してくる。もう、死んだというくらいしか逃れる方法は見つからなかった。その嘘も色々と面倒なことが起こりそうなので、止めた。
 一緒に帰りつつ大神の家に向かおうとしていた赤崎に、姉はケーキが好きだから少し寄り道してケーキを買うと良いだの適当に言いくるめ、先回りをした。
 こうして今に至るという訳である。
 正直、ばれやしないかと今から緊張で胸が弾けそうだった。少し会って、満足した頃に用事があると言って帰ってもらおう。そうすれば、もう会いたいなどとは言い出さないだろう。
 ――そして。
 玄関のチャイムが、部屋に響いた。
 一つ深呼吸をして玄関のドアを開ける。
「おじゃましまーす」
 聞き慣れた声が耳に届いた。
「あら、いらっしゃい」
 なるべく声を高く、高く。女性らしく振る舞う。
「はじめまして! 赤崎って言います」
「はじめまして、大神の姉です。よろしくね。こんなところで話すのもあれだから、ほら上がって上がって」
 そうして、大神は赤崎をリビングへ通した。どうやら今のところはばれていないらしい。このまま何事もなく赤崎が帰ることを願うばかりである。
「ちょっと待っててね。今お茶を淹れるから」
「あ、おかまいなくー」
 ちらりと赤崎の表情を伺うと、目をキラキラと輝かせながら自分の方を見ていた。
「はい、どうぞ」
 ことり、と赤崎の前にお茶を置く。
「そう言えば、大神くんは?」
「あ、ああ、お茶請けを買いに行かせたの」
「それなら、ここにケーキが」
「あら、ありがとう。ここのケーキ好きなのよ」
「へへ、それは良かったです」
 大神自身が教えたのだから好きでないはずがなかった。
「いやー、それにしても美人さんですねー」
「あらそう?」
「大神くんも女の子と見間違えるくらい綺麗な顔ですけど、お姉さんはもっと綺麗ですね!」
 大神は乾いた笑みを浮かべながら、ありがとうと返した。正直な話、自分と比べて綺麗だと言われてもどう反応して良いのか分からなかったのであった。
「赤崎さんも可愛らしくて素敵だわ」
 彼自身も驚くくらいすっとその言葉が出た。普段は恥ずかしくなって赤崎のことを褒められない大神も、この姿ならどうやら言えるらしかった。
「いやいやいや、お姉さんに言われても嫌味にしか聞こえませんよ」
「お世辞なんかじゃないわ」
 そう言う大神の顔は真剣そのものであった。
「美人と可愛いは違うと思うの。赤崎さんは確かに美人というタイプではないかも知れないけれど、とても可愛いことは間違いないわ」
「いやいやいやいやいや……」
 急に褒められた所為か、赤崎はどうやら動揺しているらしい。
「それに、初対面の私にも人懐っこく楽しそうに喋るんですもの。性格も可愛らしいと思うの」
 いつもは言えない思っていること。それがすらすら口をついて出た。
「いやはやお世辞がうまいですなー」
「だから、お世辞じゃないわ。こんな娘が彼女だなんて弟は幸せ者ね」
 この姿だから言えること。別人になりきっているから言えること。そんなこともある。女装して赤崎と会うのも悪いことばかりじゃないと、大神は感じた。
「は、はは、ははははー。照れちゃうなー」
 普段こういうことを言われるのに慣れていないのか、顔を真っ赤に染め上げながら動揺している。
 取り敢えず、この流れを止めようと赤崎はお茶に手を伸ばすが。
 ――ことん。
 伸ばした手はお茶を掴めず、真っ直ぐ前に倒れていった。その先にいるのは、勿論大神。
 お茶は机を伝い、大神のワンピースを濡らしてしまった。
「あああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 更なる動揺が赤崎を襲う。
「いやいや大丈夫よ、これくらい」
 少しやり過ぎたか、と大神は反省する。どう見ても赤崎は焦っていた。
「いえいえすみません。お拭きいたします!」
 そう言うと鞄から赤崎はハンカチを取り出す。
「いいわよ、このくらい自分で拭くから」
「いやいや、そうはいきません。私めに拭かせて下さいませ!」
 焦りすぎて喋り方がよく分からなくなっている赤崎である。
「大丈夫だから」
 その言葉を制して赤崎は大神のワンピース――特にお茶の零れた太もも周辺を拭いていく。
 ――そして。
「へ?」
 間抜けな声と共に、異物の感触を手に味わった。
 それは本来そこにないはずのもの。今まで目の前にいたのが女性であれば。
 念の為、もう一度触れる。
「何で二度も触るんだよ!」
 はっとして大神は口を押さえる。今まで気を付けていた話し方、声のトーンが男性の時のそれに戻ってしまったのである。
 赤崎は大神を床に押さえつけた。ひゃうん、だとかそんな声が大神の口から飛び出る。もう意味はないのに、何故か女性のような声であった。
 そのまま胸元からワンピースの中へと赤崎は手を忍び込ませる。
「え? ちょ、赤崎……さ、んっ」
 そして、大神の胸元に詰め込まれていたものを勢い良く引っ張り出した。ぺたりとワンピースの胸元がしぼむ。
「……へえ」
 口はにやりと孤を描いている。目は細めているものの、それは明らかに笑っている時のそれではない。
「赤崎さん、これは、その……」
「大神くんって女装好きなの?」
 着飾らぬ、ストレートな言葉。
「うん、まあ……」
「まあ、確かにこれだけ顔が整っているんだし、様になってるよね。……私も騙されたし」
 ふふ、と笑い、赤崎は口元を大神の耳まで近付ける。
「……この」
 吐息がかかり、体がぞくりとする。
「変態」 
「んっ……」
 大神の口から息が漏れ出る。
 赤崎は耳元から口を離すと、大神の瞳を見つめ直す。騙されてしまう程にしっかりと化粧が施されていた。それは、女子顔負けと言えるほど。
 耳に手を添える。ひやりとした指先に大神は先程の悪寒似た何かをもう一度感じた。
 ゆっくりゆっくりと耳から頬を伝い、首、鎖骨ときて胸で止まる。その際に人差し指が突起に触れた。
 男性のものとは思えぬ可愛らしい声を上げる大神。それはもう女性のそれに近かった。
「いつもはこんなところ触ったってそんな反応しないのにね。女装すると弱くなるの?」
「それは……」
「女装して感じやすくなるとか、本当に変態だねえ、大神くんは」
 女装はただの趣味だった。別段そこに性的観点はない。だから、今まで女装をして性的な行為をしたことなんて一度もなかった。それ故に、自分の身体の変化に彼自身、驚きを隠せなかったのである。
「どうせだから、もっと触ってあげるね」
 赤崎の指が艶めかしく円を描く。時折その指が突起に当たり、その度に声にならない声が響いた。 
「だめ、だよ……あっ、かさき、さん……」 
 辛うじて言葉を振り絞る。
「何が駄目なの? 大神くん、嬉しそうだよ」
「そんなこと……ない……」
 徐々に息が荒くなっていく。
「こっちはどうかな?」
 もう片方の手が腹のあたりから下半身の方へ伝っていく。
「そっちはっ、だめぇっ!」
 大神が声を荒げたその時。
「何やってんだ?」
「へ?」
 リビングと玄関を繋ぐ扉の前に、長い髪を後ろで一括にし、煙草を銜えた背の高い女性が立っていた。
「え、誰?」
 再び動揺を隠せない赤崎。その手は自然と止まっていた。
「誰はこっちのセリフだぜ? 人んちなのによ」
「ああ、この人は……」
 徐ろに大神は口を開く。
「僕の姉だ」

「いやあ、なんかすまなかったなあ。邪魔してよ」
「まさか、本当にお姉さんがいるとは……」
 あれから数分後。お互いに自己紹介を終え、事情を説明し終えたあとである。
「それに、まさかうちの弟に女装の趣味があるとはな」
 にやにやと大神の姉は笑っている。
「本当ですよ。私もびっくりでした!」
「その割にはノリノリだったじゃねえか」
「あはは、ばれました?」
 お互いに人当たりの良い二人である。既に意気投合済みだ。そんななか、唯一の男性である大神は隅っこで肩をすぼめながら、その光景を眺めていた。因みにまだ女装のままである。
 大きく溜息を一つ。それを聞いた二人は大神の方を向く。
「どうしたんだよ、おまえ」
「そうだよ、大神くん。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、実の姉と彼女に女装が趣味なのがばれたんだよ!? こんな風になって当然だろ?」
「まあ、いいじゃねえか。似合ってるぞ、それ」
「そうだよ、可愛いよ、大神くん」
「慰めはいらないから放っておいてくれ……」
 部屋中を二人の女性の笑い声が満たした。大神の肩はいっそうすぼまっていった。
「さて、そろそろ帰りますか」
「もう帰んのか?」
「そろそろ晩ごはんですしね」
「また来いよ。なかなかあんた気に入ったぜ」
「ありがとうございます」
 女性陣は非常に仲良くなったようだった。
「大神くん、またね」
 返事は返せなかった。
「おら、玄関まで見送ってこい」
 姉に言われ、渋々赤崎の後を追う。玄関に向かうと、既に彼女は靴を履き終えていた。
 扉に手をかけようとして、止める。くるりと振り向き、彼女は言った。
「続きは、今度ね。勿論、また女装で」
 じゃあねー、と言って彼女はそのまま家を飛び出した。
 今回のことで、少し女装に懲りた。
 ――しかし。
 大神は先程の赤崎とのやりとりを思い出し、にやりとする。
 ――やはり女装も悪くない。 
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第二十九回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2015.01.03(Sat) 20:31
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