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今日野さんの事件簿

 こんにちは、僕の名前は頭木唯里(かしらぎ ただひと)。今日野さんの助手
をやっています。
 え、今日野って一体誰かと? あの名探偵として名高い今日野時子(きょうの
 ときこ)をご存じない!? 回転する溜池事件、多次元りんご事件、黄金率盗
難事件を解決した探偵と言えば、流石にピンと来たでしょう。
 ずば抜けた推理力と常識にとらわれない柔軟な発想。そして、温厚で人当たり
がいい。後、チャームポイントの丸眼鏡。これは外せない、今日野さんを語る上
でこれは外せない。
 え、丸眼鏡の何がそんなに良いかって? いいんですか、僕に語らせても?
怪奇丸眼鏡長文事件が起きちゃいますよ?
 ……まあ、丸眼鏡のことはまたの機会にしましょう。丸眼鏡のことを語って気分
が良いのは僕だけですから。読者の方々も、この作品のタイトルを見て「事件簿
って名前についてるからには、これは推理小説だな」と思って読み始めたに違い
ないでしょう。しかしその実内容は、いつまでたっても事件は起きず、何故か探
偵の眼鏡のことしか書かれていないとあっては、これじゃあ名称詐欺です。
 真実を解き明かす探偵の助手がこんな不実なことをするわけにはいかないので、
僕の自己紹介兼イントロダクションはこれくらいにしましょう。
 結局のところ僕が言いたかったのは、僕は今、憧れの探偵の今日野さんの助手
をやらせてもらっていて楽しい日々を送っています、ただそれだけです。

***

 今日は、昔今日野さんが解決した事件のお礼ということで、地方で不動産会社
を経営している大地鐘亜里(おおじ かねあり)さんの別荘に晩餐会で招かれま
した。
 晩餐会は僕達以外にも、芥川作家の硯夏季(すずり かき)さん、売れっ子写
真家の鳥島瑛太(とりしま えいた)さん、全国に流通している木彫りの熊の40%
を作成している木彫りの熊アーティストの熊沢ベア吉(くまざわ べあきち)さ
んが招かれていた。
「いやーすごいですね。有名人がいっぱいいますよ」
 テレビや雑誌でしか見たことのない人達を前にして、テンションの上がってい
る僕とは反対に、今日野さんはいつも通り
「……んー、そうだなあ」
 とテンション低めです。こんな彼女が、キレのある推理をするのだから人は見
た目で判断してはいけない。
「皆さんお越し下さりありがとうございます。今日は、なじみのフランス料理屋
からシェフを呼んでいますので、皆さんお楽しみ下さい」
 その時、鳥島さんが立ち上がりました。
「どうされました?」
「すいやせん、ちょいとトイレをお借りしてもいいですかい?」
「ええ、場所はわかりますか」
「ああ、大丈夫です。失礼します」
 鳥島さんが部屋を出たのとほぼ同時に、テーブルの上に前菜が運ばれてきまし
た。
 色鮮やかに野菜が盛り付けられ、何かのムースがちょこんとのっていて、あと、
ここーう、何か、その僕にはこの料理が何なのかよくわかりませんでした。
「とりあえず、鳥島さんが戻ってくるまで待ちましょうか」
 鐘亜里さんが言いました。
 僕は割りかし貧乏舌で、この料理の味がきちんとわかるか心配でした。鳥島さ
んが帰ってくるまでに無難な味の感想を考えておこう……
 そう思った矢先、
「ぱぱあ、たいへんなの!」
「おいおい、メアリ。今夜はお客さんが来るから自分の部屋にいなさいと言った
じゃないか」
 鐘亜里さんの注意を無視して、メアリちゃんは叫びました。
「わたしのくまたがあ!」
 どうやら僕たちは事件からは逃れられないようですね。やれやれ。
「今日野さん、行きましょう」
「ああ!」
 今日野さんの雰囲気が変わった……どうやら探偵モードに入ったようですね。
 しかし、現場に行く前にまず
「今日野さん、目薬持っていませんか? 昨日徹夜していて目がちょっと霞んで
きて」
「なんだ、タイミングが悪いなあ。はい、これ」
 僕は今日野さんから目薬をもらうと早速右目に差した。
「っ痛!」
「頭木!?」
 なんだこの目薬、無茶苦茶目に染みるぞ――
 右目は痛みでほとんど開かない、僕は左目で目薬を確認する――
「…………これは醤油差し……!?」
 目の前が真っ暗になりました。

***

「頭木! 頭木!!」
 ……どうやら俺は少し意識を失っていたらしい。
「今日野さん、俺はもう大丈夫です。それよりも事件が」
「頭木! よかった……」
 今日野さんの目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
 やれやれ、全く心配しすぎだ。
「すまない、形が似ていて間違って醤油差しの方を渡してしまった……本当に私は」
 やれやれ、今日野さんのそういう天然なところには時々困らされるが、
「気にしないでください、右目もキチンと見えているので」
「でも、一応病院に行ったほうが……」
「大丈夫です、それよりも今はメアリちゃんのくまたの件が先です」
「でも……」
 俺は今日野さんの両肩を掴み今日野さんの顔をまっすぐ見つめて言った。
「信じて下さい、俺の目にはちゃんと今日野さんが映っていますから」
「…………あ、ああ。そんなに言うのならわかった」
「じゃあ行きましょう」
 本当は今日野さんに俺の右目、そう呪われた右目――煉獄乃邪眼(れんごくのじ
ゃがん)について話したかった。しかし、この秘密を話すことは今日野さんを魔
界戦争(しょうしゃなき血戦(けっせん))に巻き込むことになるのだ……そんなこ
とはできない。
 これは呪われた頭木家の子どもとして生まれた俺が背負わなければいけない運
命(デスティニー)、そして俺自身が決着を付けなければいけない因果(いんが)
なんだ……
「……いつか必ずケリがついた時、その時には……」
 俺はメアリちゃんの家に向かっている中、一人呟いたのだった。

***

 メアリちゃんの様子から、とんでもない大事件かと思ったが(例えば溢れるほ
どのヒキガエルが部屋に詰め込まれていたとか。実際、陰陽機関(おんみょうき
かん)――「自然」の存在を転覆させ、森羅万象を「故意」の事象にさせることを
目的としている、超秘密機関――ならこの程度のことはやりかねない)何のことは
なく、メアリちゃんのお気に入りの熊のぬいぐるみ(くまた)が失くなったとい
うことだった。
「今日野さん、ちょっと拍子抜けですね」
「まあ、メアリちゃんにとってはショックな事だろうからね。とりあえず部屋の
中を探しましょう」
 泣きじゃくるメアリちゃんをなだめながら、硯、鳥島、熊沢の三人も一緒に入
れて、熊のぬいぐるみの捜索が始まった。
 2,30分ほど探したが、くまたは見つからなかった。
「メアリ、くまたはいついなくなったの?」
 鐘亜里の奥さんが尋ねた。
「えっとお、くまたとパーティごっこをしてて、わたしがトイレにいったらくま
たがいあくなってたのお、ぐす」
 うーん、これはもしかしたら……
「今日野さん、もしかして……」
「……盗難の可能性があるな。そしてこれだけの短い犯行時間、そして外からの侵
入の形跡がないことを考えると、犯人はこの家の中にいるものの誰かだろう」
 静寂が俺達を抱いた。
「そ、そんな。だってただのぬいぐるみですよ。わざわざ盗むものなんか……」
 鐘亜里がうろたえる。怪しいな。
「まあ、そういう可能性も考えたくはないですけど……私達の使用している部屋も
調べますか」
 と熊沢が言った。やけに協力的だ……
「ん-何か引っかかるな」
 何だろう、熊のぬいぐるみ……熊……熊……熊沢っ!
「く、右目がっ」
 くそ、何だ……右目が疼く……! この感覚……まずい、黒闇絶望眼(ブラック・ダ
ーク・ディスペアー・i)が暴発する……!
 鎮まれ、俺の煉獄乃邪眼! ここで黒闇絶望眼を発動させるわけには!
 落ち着け……そうだ深呼吸をしよう。
「すー、はー……」
 少しは俺の右目も…………くっ、また黒闇絶望眼が!
 そうだ、気持ちを紛らわすために素数を思い浮かべるんだ。
 1,3,5、7、11,13、17,じゅうきゅ……くそ、黒闇絶望眼がっ!
 もう一回、深呼吸をして
「すー、はー……」
 よし、もう一回素数を思い浮かべるぜ。
 1,3,5、7、11,13、17,じゅうきゅ……く、やはり黒闇絶望眼がっ!
 ダメだ、どうしても19になると黒闇絶望眼してしまいそうになる。
 よし、じゃあしりとりだ。一人しりとりをしよう。
 しりとり、林檎(きんだんのかじつ)、業(かるま)、失われた過去(パース
ト)、超えていく未来(フューチャー)、因果を結ぶ(おれの)
「黒闇絶望眼! (ブラック・ダーク・ディスペアー・i!)」
 俺はとうとう黒闇絶望眼を発動させてしまった――

***

 頭木唯里、中学二年生。春のある昼休み。俺は屋上にいた。
「なあ、最近俺の右目ちょっと変じゃないか」
 俺は隣で体育座りをしている少女に話しかける。
「物貰いでもできたのか?」
「いや、そうじゃなくてこう右目が疼くというか、もしかして何か能力に目覚め
てしまったのかもしれないというか……」
「能力? 面白そうだな。どういう能力なんだ?」
「え、あー、何だろう、こう人が決して気づくことの出来ない真理が視えてしま
う、みたいなヤツだな」
「じゃあ、ちょっと私を見てもらおうかな」
「……うーん」
「どうだ、わかったか?」
「もしかして,宇宙人だったとか」
「あははは、何だそれ。違うよ、正解は眼鏡のフレームを変えた、でした」
 それこそ何だそれ、と思ったが黙っていることにした。

***

「頭木、おい頭木!」
「大丈夫か、右目を押さえているが、やっぱり無理をしているんじゃ……」
「い、いやちょっと黒闇絶望眼しただけで」
「ぶ、ぶらっく……何だ何て言ったんだ?」
「気にしないでください、そんなことよりも犯人がわかりましたよ」
 ざわめきが俺達を抱いた。
「犯人ってメアリの熊を盗んだ犯人ですか!?」
「ええ、そうです鐘亜里さん」
「……おいおい本当に大丈夫か」
 今日野さんが耳打ちをしてきた。
「任せて下さい。推理は完璧です」
 証拠はまだないが、それは後に出てくるだろう。
「さて、そのくまたを盗んだ犯人は――そう、熊沢ベア吉あなたです!」
 俺は熊沢に向けてビシっと指差した。
「な、なんで私が……!」
 慌てる熊沢。犯人とバレてしまったことが余程ダメージになったのだろう。だ
が、この右目に暴けない謎はない。
「重要なのは盗まれたのが熊のぬいぐるみだということ、そして熊沢、あなたの
そのガッチリとした巨体と顔つきが熊に似ていることだ!」
「な、何を言って」
「言い訳は、後でいくらでも。ただし、俺の推理を聞けば何も言う気にはならな
いでしょうけどね。さて、では熊沢がどのように犯行を行ったか。まず熊沢は自
分が持ってきた木彫りの熊を自分の席に自分の身代わりとして置く。そして、当
然俺達は、熊と熊沢の見分けがつかないから、その木彫りの熊を熊沢本人だと思
い込む。これであんたは俺達と一緒にいたというアリバイを得ることができる。
そしてすきを見てメアリちゃんの部屋に忍び込んで熊を盗んだ。まあ、動機は恐
らく熊が好きだからだろう」
「いい加減にして下さい、こんなの無茶苦茶だ! だったら私の部屋でも身体で
もどこでも調べて下さい! 熊のぬいぐるみなんて出てきませんから!」
 ……何だ、普通はもっと追い詰められてこの場から逃げ出したりしそうなのに
それどころか進んで調べられたがっている――まさか、眼の前にいる熊沢も木彫り
の熊でフェイクなのか! だとしたら本物は……
「すまねえ! オイラが盗んだんだ!」
「と、鳥島さん……!?」
「昔、大地さんのお宅にお邪魔したとき、その嬢ちゃんが抱っこしていた熊のぬ
いぐるみに一目惚れをしちまって……それでオイラも同じものを買おうとして色々
店を探し回ったんだがどこにも見つからなくって……本当は一目見るだけでよかっ
たんだ! だけどよお、本物を前にしたら気持ちを押さえられなくてつい……ほん
の出来心だったんだよお」
 鳥島はその場に泣き崩れた。

***

 くまたは鳥島の部屋から見つかった。どうやら事件の真相は、トイレに行くと
嘘をついて(大の大人が熊のぬいぐるみを見に行くなんて知られたら恥ずかしい
とのことだ)メアリちゃんの部屋を訪ねたが、幸か不幸か偶然メアリちゃんはト
イレに行っており、つい魔が差してくまたを盗んでしまったということだ。……彼
もまた、くまたの魅力に踊らされた哀れな被害者なのかもしれない。
 大地邸からの帰りの車で、俺は今回の事件について振り返る。
「今回の事件も、様々なことが絡み合った複雑な事件でしたね」
「いや、それほどでもないんじゃないか」
 流石、今日野さん。この程度の事件は「それほどでもない」か。まだまだその
背中は遠いな。
「でも、警察に突き出さなくてよかったんですかね鳥島」
「うーん、まあ鳥島さんもとても反省しているみたいだし、それに大地夫妻も許
すって言っていたんだからいいんじゃないかな。メアリちゃんともあの後、鳥島
とくまた、二人と一匹でおままごとで遊んでいたから、ちゃんと仲直りできたん
だろうし」
 なるほど、罪を憎んで人を憎まずか。これもまた、今日野さんの「正義」なん
だろう。
「……次はどんな事件に遭遇することになるんでしょうかね」
「……できれば何の事件も起きない、平和な世界が一番なんだけどなあ」
「そう、ですね」
 そうだ、そのためにも俺は戦い続けなければいけない。陰陽機関と、そして世
界征服を企む諸々の秘密結社と……あと、魔界戦争も何とかしなければいけない!
(リマインド)

〈続く〉

テーマ:「今日のさん」
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第三十四回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2018.01.09(Tue) 07:00
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