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意地っ張りなお稲荷様と巫女さん

「……飽きたの」
「はっ?」
 今なんとおっしゃったのだ? この方は。
「……飽きた、とおっしゃいましたか?」
「うむ、最近供物が油揚げばかりなのにはもう飽き飽きじゃ。そもそも我は肉食なのだぞ? それなのにここ数百年は皆油揚げばかり……嫌いとは言わぬが、当分は見とぉない」
「はぁ……」
 いや、確かにずっと油揚げばかりでは飽きるのかもしれませんが……
「昔は鼠を揚げた奴がよく供えられていたのだがのぉ……」
「ちょっ、お待ち下さい。まさか私に鼠を捕らえて揚げろとおっしゃいますか?」
「流石にそうは言わんぞ、そもそもこのご時世鼠などそうそう彷徨いてはおるまいし、我はそこまで鼠は好まん」
「……昔はよく鼠を食していらしたのでは?」
「当時は鼠ばかりだったからの、最も手頃な食糧だったのよ。それに人間との利害も一致したからの」
「そうですか……」
「というわけで、明日の朝何かしらの肉の揚げたものを我のところに持ってくるがよい」
 突然そう仰せられましても……まあ仕方ないか、帰りに唐揚げ屋さんにでも寄って……
「あ、勿論お主が作るのだぞ?」
「えっ」
 いや、あの……私料理できないんですが……いや、ちょっと待って、待って下さい、どうかお考え直しを……


「……で、これはなんだ?」
「……鶏の唐揚げ、です……」
「我には黒焦げのよくわからぬ物体にしか見えぬのだが?」
 いや、しかしですよ? これでも頑張ったんですからね? 料理なんて殆どやったことなかったんですから……
「確か、揚げたものは狐色、という色を使うそうだが……お主は我の毛皮がこのような黒ずんだ色だと本気で申しておるのか?」
 何も言えません……
「はぁ……お主に期待したのが間違っておったかのぉ……」
 あ、ちょっと今のはピキッ、と来た。
「わかりました……ご不満のようでしたら、又明日ちゃんと貴方様の狐色の唐揚げを揚げて持って参ります」
「いや、別に売っているもので……」
「私が、揚げて、持ってまいりますので。では失礼いたします」
「いや、えぇ……」
 ……とは言っても、どうしよう。誰かに教わるのは何か負けた気がするし……そもそもあの方の毛皮の色って唐揚げで再現できるのだろうか……いや、絶対再現して、味もちゃんと美味しいものに仕立ててみせる!

「ふむ……少しはマシになったようだが、まだまだだのぉ」
「えぇ……結構今回は自信があったのですが……と、言いますか、そもそも私貴方様の本当のお姿を拝見したことがございませんので、どのような色をしていらっしゃるのか存じ上げないのですが……」
「そうであったか? まあよい。元の姿に戻るのも面倒だ。どうにかせい」
「いえ、あの……実際にお姿を拝見させていただきませんと再現ができないのですが……」
「心の目で見るのじゃ」
「無茶を仰らないでください……」

「うーむ……まだ我の毛並みには届かぬの。味はまあまあじゃが」
「あら、今回もダメですか? 中々ご要望にお応えするのは難しいですね」
「ま、最初の黒焦げよりはマシじゃがの」
「まあ酷いこと」
「ふん……お主、今日のものは少し揚げる時間を短くしたじゃろう」
「あら、バレてしまいましたか。今日は少し寝坊してしまいまして……」
「じゃろう? 我には何でもお見通しなのじゃ」
「ふふ、ですが先日のお願い事の際には……」
「うっ……それに関しては悪かった、娘っ子に謝っておいてくれんかの」
「えぇ、かしこまりました。ですが僭越ながら私としましては、あのような間違いの仕方はどうかと……」
「う、煩いわい。人形と本物を間違えたくらい、いいではないか……」


 コツ……コツ……
「……む、来たかの」
 漸く来おったわい。全くここまで我を待たせるとは。
「遅いぞ、待ちくたびれたではないか」
「ふぅ……申し訳ございません、少々来るまでに手間取ってしまいまして……」
「それはよいから、ほれ早う持って来るがよい」
「はい、ただいま……」
 む……? そうか……
「ふむ、流石にこなれて来ておるの。まあこれだけやっておれば当然かの」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「ところでどうじゃ? もう10にはなるじゃろう?」
「ええ、お陰様で9月に10になります。あの子の顔を見ていると癒されまして……ふふ、できればあの子の嫁入りまでは見ていたいものですが……流石に望み過ぎですね」
 ……そうじゃの、現実など非情なものじゃ
「お主は……近頃はどうじゃ?」
「私でございますか? いえ、特に変わりはございません。相変わらず楽しく暇な時間を過ごしておりますよ……」
 ……お主は昔から、嘘をつくのは下手じゃったの……
「では、そろそろ失礼いたします……」
 言うべき、なのじゃろうかのぉ……
「ちと待て」
「はい、何でございましょうか?」
「あ、あぁ、うむ。本日のものは……」
 …………
「……格別に美味であったぞ、大義である」
「……お褒めのお言葉、ありがとうございます……」
 コツ……コツ……

 ……すまんのぉ、すまん。


「稲荷様! 稲荷様!」
「む? おぉ、よう来たの。今日はいつもより早うないかの?」
「今日から私は夏休みなのでございます! ですから朝からこちらへ参ることができますよ!」
「おぉ、そうか。もうそのような時期かの」
「そうでございます! それで、こちらが本日の唐揚げでございます! 稲荷様の毛皮のお色に少しは近づきましたでしょうか?」
 ……そうじゃのぉ、次は何にしようかの。何せ……

「飽きたのぉ」

 ……あの日の唐揚げを超えるものなぞ、現れんじゃろうしな。

 見事なまでの、狐色の唐揚げは……



テーマ「狐色」

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第三十三回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2017.08.08(Tue) 00:00
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