FC2ブログ
« 2019 . 03 »    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 | CM(-) | TB(-) --.--.--(--) --:--

〈本物と偽物〉

001

「花瓶の鑑定、ね」
 空風にカタガタと揺れる窓を背に、一人の女性が呟いた。
 胸部まで伸びる長い髪は簡素なヘアゴムでまとめられている。艶のある真っ赤なトレンチコートからのぞく黒のニット。ベージュのスラックス。その長く細い足を組んだまま、女性は手渡された資料に眼を通し終える。
「なんでまた、こんな依頼を?」
 ぱた。低くうなり声を上げるストーブに合いの手をいれるように、資料が長机の天板に落ちる。
「ここは探偵事務所だぜ。鑑定事務所じゃない。わかってるだろ? 旦智あきとも
 その声は、怒気を孕んでいるというよりもどこか、困惑しているようにさえ聞こえた。それもそのはずで、女性はこの職に身を投じて以来、未だそんな依頼を受け持ったことがなかった。
 対して、旦智は――女性の目の前に座る真っ黒なハットは、肌を撫でる冷たさから身を守るように肩を震わせた。
「わかっています、水下みなしもさん。けれど、僕達みたいな探偵が生きていくには、このご時世、えり好んでもいられないんですよ。その――」
 旦智は水下の手を見、すぐに目を逸らす。少しでも、その気に触れまいとするような仕草だった。
「――〈度胸〉は、求められちゃいない」
 沈黙。
 水下は、長く細いため息をつく。
「引き受けよう」
 酷く短い肯定の言葉の後、水下はピタと息を止めた。鼓動、鼓動、鼓動。旦智はその答に、にこりと笑う。

「これ以上なく大胆に」
 そう言って彼女は、不敵に笑う。

 〈度胸探偵〉などという奇天烈な名前が踊る事務所の看板が、ガタリと揺れた。

002

 二月三日の金曜日、依頼人の小林こばやし優郎すぐろうと水下達とは、彼の有する邸宅の一室に、紅茶を挟んで向かい合っていた。優郎は黒髪の混じる白髪をオールバックで固めている。薄い青のシャツに、暗い色のベスト。
「今回はご依頼、ありがとうございます」
 優郎から向かって右側、〈剛勇ごうゆう 旦智あきとも〉という名詞を差し出した黒いハットは、慇懃に背筋を伸ばした。精一杯背伸びをしても百六十センチに満たないと思われるその矮躯は、幼子のようにさえ見え、剛勇という名字にも、その礼儀正しい態度にも似つかわしくない。優郎の目の前に座る、〈水下みなしも 無月なつき〉をヒラヒラと革手袋で弄んでいるトレンチコートとはまさに対照的だった。
「んで? どこにあるんだよ、その花瓶ってやつは」
 ピッと名詞を優郎の側に滑らせて、水下は腕を頭の後ろで組んだ。
「ああ、申し訳ない。すぐに用意させましょう」
 優郎が使用人を呼び、少し話し込んでいる合間に、旦智は水下の袖口をフイフイと引く。
「なんだよ」
「なんだよじゃないですよ。相手は大切な依頼人なんですからね。あんな態度……。手袋だって外してください。それに、壊したりこぼしたりしないでくださいよ、その紅茶とか」
「手袋してちゃあまずいのかよ。あのおっさんだってつけてるだろうが。お前だって帽子被りっぱなしだし」
「……」
 帽子を脱ぐために緩んだ旦智の手を振りほどくと、水下は組んでいた足をほどいて、さらに噛みつくように両手の革手袋を外す。それぞれをコートのポケットに突っ込んで、これでいいかよとでも言いたげに両手をヒラヒラと舞わせた。その乱暴な態度とは裏腹に、露わになった手は陶器のように透き通っている。以前旦智にそれを指摘されたとき、「女っぽいと下に見られるだろうが」と憎々しげに吐き捨てていたところからすると、なにか嫌な思い出でもあったのかもしれない。
 彫刻のようなその手が紅茶のカップを掴むのと、台車を押した使用人が扉から応接間に入ってくるのとはほとんど同時だった。台車の上には灰色に光るアタッシュケースがガタガタと震えている。腰を上げた優郎がそちらへ向けて足早に向かっていく。
「来ましたよ」
「見りゃわかるよ」
 クイと傾けたティーカップに「あっつ」、舌打ちをしながら水下は優郎が台車を押して来るのを待って、
 その手にカップの中身をぶちまけた。
「んうあッ!?」
 なんとも付かない声を上げて、優郎は手をバッと振り回す。旦智の額に、紅茶の雫が跳ねる。そのまま、ツツツと垂れていく。
「もう!」
「ああ、悪い」
 水下がヒョイと足をソファの上に上げると、その机とソファとの合間を縫うように旦智が飛び出した。まるでこうなることがわかっていたかのような素振り。いつものことなのかもしれない。
「申し訳ありません!」
 丁寧にアイロンがけされたハンカチを取り出すと、旦智は優郎の右手を掴んだ。そしてそのまま、右手の革手袋も流れるように取り払ってしまう。大の大人ならばまだしも旦智のような見た目の者がする分には優郎も拒否しづらいようで、居心地悪そうにしながらも、されるがままになっている。一拍遅れて、使用人が「大丈夫ですか」と小さめのバスタオルのようなものを持って足早に向かってくる。もう片方の手には氷嚢と思しき包みを携えている。
 優郎は我に返ったかのように「心配しすぎだ。少し手にかかっただけなんだ。下がっていなさい」と言うと、タオルを受け取って、また水下、旦智の向かいのソファに座り直した。穏やかに手を振り払われた旦智は、気まずそうに湿ったハンカチをたたみ直して水下の座るソファの後ろから再び元座っていた場所へと浅く腰掛ける。
 使用人はといえば、手際よく飛び散った紅茶を拭き取ると、扉の向こうへ消えていってしまった。
「あの……申し訳「いいんですよ。そういう触れ込みでしょう。〈度胸探偵〉さん」
「あ、え……あの」
「わかってるじゃんか」
 旦智が答えづらそうにしているところに水下が助け船を……泥船を出す。
「黙っててください、あなたは」
「へーい」
 拗ねたように口をとがらせる。
「……では。あー……花瓶の鑑定、とのお話でしたが」
 喉がつっかえたようになりながらも、旦智は話を切り出した。
「ええ。電話させていただいたときにお話ししたとおりです。曾祖父から受け継いだものなのですが……」
 言いながら優郎は膝の上に置いたアタッシュケースを丁寧に開け、中に入っていた二つの花瓶を机の上に取り出した。大きさは二十センチメートルほとだろう。どちらの花瓶にも、可憐に咲き誇るおんいろの花が描かれていた。水下たちから向かって右の花瓶には握りこぶしほどの、左側の花瓶には指先ほどの大きさの花模様が精巧に施されている。
「このどっちかが偽物だって?」
「話は最後まで聞くものですよ」
 すでに飽きてしまったかのように両手を頭の後ろで組んでしまった水下を右肘で小突きながら、旦智は二つの花瓶に視線を走らせる。そんな水下の対応に、偶然だったのかそれとも狙っていたのか、優郎は「ああ、失礼」と一言呟いて、向かって左側にあたる花瓶をクルクルと百八十度回してみせる。
「ああ」
 その変わりように声をあげたのは、しかし旦智ではなく、水下だった。
 その裏から現れた、握りこぶしほどの花を見て。
「同じ、花瓶」

003

 〈本物と偽物〉。
 江戸時代中期に活躍した陶芸家、平塚ひらつか偽物ぎぶつの作品。
 幼ない頃から父、平塚ひらつか贋作がんさくの所有する掛け軸や浮世絵が偽物か否かのいざこざに巻き込まれ続けてきた彼が、憎き父親(後に、父贋作は本物の父親ではなかったことを知る)につけられた最も忌々しい〈正之介〉という名前を捨てて、始めて世に放った作品である。
 長きにわたって父の旧友であった陶芸家(後に、彼は贋作作り専門の陶芸家であったことを知った)に師事していたからか、その腕前は折り紙付きであり、処女作とはいえど、当該作品からもそれが見て取れる。
 外観は乳白色の地に鮮やかなカキツバタが三輪という非常にシンプルなものであるが、特筆するべき特性は、他にある。
 「本物も、偽物も、みな美しい。どちらが正しいなどということはない」と常々口にしていたという平塚。その〈偽物を軽んじるべきではない〉という思いを一心に背負ったように並び立つ、全く同じ作りの花瓶たちは、見るものに等しく衝撃を与えることだろう。
 本物と同じように咲き誇るカキツバタの持つ花言葉は、〈幸福が来る〉。偽物として生まれ、偽物に苦しんだ彼の、それでもここに幸せはあるはずなのだという心の声を代弁したかのような――

 〈陶器から見る日本の歴史〉(黒沢 2003)より抜粋

004

「なるほど……同じように作られた、〈本物〉と、〈偽物〉」
「だとすればそれは両方とも本物なんじゃねえのか? 〈本物と偽物〉の、本物」
 手をほどいた水下は、しかし先程とは違っていらだたしげな表情を見せる。結局は何が言いたいんだとでも言いたげな表情に、優郎はは革手袋をしたままの左手で応じた。
「いえ、ちょっと待ってください。私もそれくらいはわかっています。ですから、このうちのどちらかが……〈本物〉と〈偽物〉の――いえ、その区別すらままならなかったでしょうが、そのどちらかが、誰か別人の作った花瓶とすり替えられてしまった、というわけなんですよ。つまるところ」
 チラと花瓶の方へ視線を移し、優郎は切なげに空笑いを作る。
「ああ……なんて、祖父や平塚先生になんて申し訳ないことを……」
「あまりご自分を責めないでください」
 ついには頭を抱え込んでしまった依頼者を旦智はそう宥めるが、他にかける言葉も見つからないのか、そうしたきり場は静まりかえってしまう。
 水下は空になっていた自分のティーカップを傾け、また傾け、最後の一滴まですすりとるようにしてから、ソーサーの上へと載せる。そのカチリという音で眼を覚ましたかのように顔を上げると「奥の部屋に、いつもこの花瓶は置いてあるんです」と言うと、優郎は立ち上がる。フワリと舞う左手は、〈こちらへどうぞ〉というふうに二人を促す。呼びつけた使用人に、「お前はここで花瓶を見ていなさい」と言うことも忘れない。
「じゃあ僕も……」
「旦智、お前は待ってろ」
「ああ……はい」
 上げかけた腰を強ばらせ、ピクと背筋を張って、旦智は答える。
「あ、と、いいのですか。一緒にお話をと思っておりましたが……」
「まだ見習いですから。いずれ、いざ独り立ちという段になってなにもできないというのでは目も当てられません。あとで彼女からお話は聞いておきますよ」
「そういうこった。案内してくれ」
 いつの間にかはめていた革手袋で優郎の腰をボと押しながら水下は優郎と共に奥の部屋へと消えていく。

005

 案内された〈奥の部屋〉は、先程の応接間から二、三の部屋を隔てた先にある彼の書斎だった。中央に大きく場所を取る木製の机には、このご時世には珍しく、インクに、羽ペン。その奥には裏庭へと続く大きな窓。荘厳な刺繍の施されたカーテンがほとんど閉まっているからか、室内の空気は薄暗く重苦しい。水下は特に理由もなくケホケホと咳き込んだ。視線を右に移せば、焦げ茶色の本棚にギッシリと詰められた革表紙の本。古びてしまっていて題名を見て取ることは難しい。
「ここですよ、ここ」
 左方へと歩いて行った優郎は、以前には花瓶が置いてあったのであろうライティングビューロの天板を軽く叩く。
「普段はここに、ああ勿論倒れないように台座も使っていましたが、置いてあったんですよ。二つともね」
 宙を花瓶の形になぞるようにして熱弁する優郎を背に、水下は部屋の中を見回す。
「すり替えってのは……何を根拠に言ってるんだ?」
 照明には、四角いカバーの掛けられた大きな電球が二つ。部屋の入り口の真上と、部屋中央の机の上に一つ。
「ああ、それがですね、二週間前の……あれは木曜日ですか、突然でしたから驚きましたよ。夜中の一時頃でしたでしょうか。私は二階の寝室で眠っていたのですが――

006

 山本と名乗った使用人は、旦智のティーカップにおかわりを注いで、持参した折りたたみ式の椅子に腰を下ろしている。「別に気を遣われなくても」という旦智の呼びかけにも、「いえ」と答えるばかりだ。数度の答酬の後、旦智は折れたように「じゃあいただきます」と紅茶を口に含んだ。
 二人の目の前には、〈本物と偽物〉。……優郎が言うには、どちらかが偽物、とのことだったが。
「見ても良いですか? これ」
 一丁前に上着のポケットの中から白い手袋を取り出して、山本に尋ねる。
「ええ。ですが、どちらが本物ともわかりません。どうか慎重にお願いいたします」
「ええ。わかっていますよ」
 向かって右側の花瓶に触れると、そのまま花瓶の縁に手をかけるようにして、それを持ち上げる。途端、「うわっ」と声を上げた旦智は、続けて山本の方を向くと「すっごく軽いんですね、これ」と呟いた。
 内側から触るとその原因は瞭然で、見た目から想像されるよりもその肉厚が薄く作られているからであった。
「厚みのある作品の方が壊れやすい側面も孕んでいるんだと旦那さまは仰っていました」
 ですから、山本は続ける。
「平塚先生も、ご自分の思いが末永く後世に伝わっていくことを望まれたんじゃないでしょうか」
「なるほど……」
 一通り検分を終えて、旦智はその隣の花瓶を手にする。
「うわっ……重さまで本当に一緒なんですね」
 慌てて取り落としそうにでもなったのか、花瓶の首の部分をしっかりと持ち直しながら、呟きが漏れる。おそるおそるさっきと同様に検分を始める。数分の後、静かなため息と共に花瓶を置いた旦智は「はは」と失笑する。
「これ言うとあとで怒られるかもなんですけど……これを、本物と偽物とで見分けるっていうのは……」
「難しそう、ですか?」
「ええ、かなり」
 言うと旦智はスックと立ち上がる。その手元をのぞき込むために前屈みになっていた山本は驚いたように肩を竦めた。
「ああ、すみません」
「あ、いえ。……どうされました?」
「ちょっとお手洗いをお借りしようと思って。大丈夫ですか?」
「はい。でしたらご案内させていただきますよ」
 続いて立ち上がろうとした山本を旦智は「いえいえ」と手で制する。
「大丈夫ですよ。先程優郎さんに教えていただきましたし。それに、あなたはさっきから何かと忙しそうだ。今くらいはゆっくり休んでいてください」
 白い手袋を外すと、旦智はソファの端に掛けてあった黒いハットを深々と被り直す。
「それでは、ご機嫌よう」
 そんな不似合いな台詞に、山本は首を傾げた。

008

 事件の話も佳境、黒衣に身を包んだ犯人との大立ち回りを披露する優郎の部屋に、困ったような顔をして旦智が足を踏み入れる。
「そこでですね! ……ああ、どうされました」
 何かを振りかぶったような格好のままで優郎は気の抜けたような声を上げる。目を細めてつまらなそうに芝居を見ていた水下はやっときてくれたかとでも言いたげなため息をついて、「待ってろと言ったはずだが」と形ばかりを口にし、髪をかき上げた。
「いえ、それがですね……、お手洗いをお借りしたく……その、迷ってしまいまして」
「ああ、そういうことでしたら。廊下を右手に進んで三つ目の扉がそうですよ。取っ手に花があしらえてありますから、わかるかと思いますが。案内しましょうか」
「ああ、いえ、大丈夫です。ご迷惑おかけしました」
 深々とお辞儀をした旦智は優郎の背後、水下に目を向けた後、口に手を当てて声を上げた。
「水下さん、どっちが偽物かわかったとしても、絶対割ったりしちゃ駄目ですからね。両方共ですよ。あと、僕はさっきの部屋にいますから、先に帰ったりしないでくださいよ。また帰れなくなるのはごめんです」
 部屋に入ったときに目にした優郎の姿に感化されたのか、どこか芝居がかったように振る舞う旦智にヒラヒラと手を振りながら、「わかったよ。ほら、戻ってろ」と眉の端をキュイと上げる水下。
 その反応に満足したのか、旦智は「失礼しました」と扉を閉めた。
 優郎と二人、再び部屋に残された水下は憎々しげな表情を隠そうともせずに、「ほら、続けろよ」と吐き捨てる。そんな水下の反応を苦にもせず、優郎は再び何かを振りかぶったような姿勢に戻る。
「お前! 何やつだあ! 言ってやりましたよ。とはいえ内心は怖くて怖くてしかたがありませんでした。ですがここは私の家、私の砦。そして平塚先生や数多くの巨匠の遺産が眠る宝物庫なのです。ですから私は――

 ――私は昔柔道部でして。油断した犯人の胸ぐらをグイと掴みましたよ。ええ、そりゃあもう、犯人はさぞ驚いたことでしょう。まさか盗みに入った屋敷で返り討ちに遭いそうになるなんて、想像だにしていなかったでしょうから」
 旦智の姿が消えてから二十分ほど経った頃、四度目の欠伸をかみ殺すと、水下は手でうるさげに優郎を制した。
「……どうかされましたか。ここからがいいところなのですが」
「もういい」
「もういい、と仰いますと?」
「犯人がわかった。そんで、偽物の花瓶もわかった」
 一拍おいて驚嘆の声をあげた優郎から目を背けるように部屋の扉に手をかける。応接室へ向けて廊下を足早に進む水下の後を、ドタバタと慌てたように優郎が追いかけてきた。
「ありがとうございます! それで、一体何でわかったのですか」
「……」
「やはりあの窓に仕掛けが」
「なかっただろ」
「ではあの机の裏のひっかき傷が」
「前からあったんだろ?」
「裏庭で見つかった新たなアタッシュケースが関係」
「してない」
「じゃあ一体何が!」
「落ち着けって」
 水下は速度を緩めることなく、元いた応接室の扉を開ける。
 そこに旦智の姿はない。が、気にした風もなく、水下は使用人の山本へ向けて紅茶のおかわりを頼んだ。
 ソファに腰を下ろしても、優郎は興奮冷めやらぬといった風で、目の前の水下と机の上の花瓶とを見比べて大げさに頭を捻っている。
「一体どっちが……」
 片方の花瓶を手に取ってクルクルと回し、またもう片方もクルクル。その目には滑稽に映ったのだろう、水下は表情も変えずに「は」と笑う。
 少しして、山本が新しいティーカップを運んでくる。一杯目に出されたものよりも幾分か冷まされているらしく、立つ湯気は薄い。
「あの、お連れの方がお手洗いに行ったきり戻ってこられないのですが……」
 その言葉を無視し、水下は机に置かれる前に山本の手元のソーサーからティーカップを取り、一息に飲み干した。
「そろそろ、解決編といくか」
 芝居がかった風な口調で、水下はガチリとティーカップを山本の手元へ戻す。なめらかにソファから腰を浮かせ、優郎がしげしげと眺めていた花瓶をひったくる。机の上に置いてあったものも同様に。左右のそれぞれの手で、まるで重さを測るかのようにそれらを交互にユラユラと揺らし、そして、そのまま。
 水下はその手に持っていた花瓶を両方とも床へと叩きつけた。

009

「犯人はてめえだろうが。ばあああああか」

010

「お疲れ様です」
 優郎の家の目の前に停められていた車のドアが開く音に、後部座席で目を閉じていた旦智はそう応える。鍵の差し込まれる音に続くように、車体がブルンと震える。無機質な温風が旦智の顔へと吹き付けた。
「どうしました。ご機嫌斜めですか」
「三文芝居に付き合わされてた」
「みたいですね」
 ガチリ。ガコガコ。手際よくギアを操作して、すぐに車は走り出す。小林邸を横目に名残惜しそうな表情をして、しかし旦智は「ふふふ」と笑って見みせた。
「どうでしたか、彼は」
「紋切り型だったよ。な、なにをするんですか」
 さっきまでの仏頂面が嘘のように、水下はおどけて優郎の真似をする。また、肩を揺らしてケタケタと笑う。
「メイドもわかりやすく悲鳴なんてあげちまってよ。きあああ。きあああ」
「可哀想ですよ、馬鹿にしたら。お紅茶、美味しかったでしょう」
「ま、それなりにな」
 信号。曇った窓硝子に、赤い光がボンヤリと浮かぶ。何の気なしに旦智がそれを眺めていると、水下は振り返る。
「それにしても、本当に両方とも偽物だったのかよ、あの花瓶は」
 旦智はちゃんと前を見てくださいとたしなめつつ、にこりと笑って、「ええ」と呟く。
「実際に手に取って、見て、わかったんですよ。……あの花瓶は少なくともひいおじいさんの代から受け継がれたものだって、言っていましたよね」
「ああ」
「だとすれば、部外者がなぜ〈本物と偽物〉の偽物など作ることが出来るっていうんですか。あんな精巧に。あんな緻密に」
「……なるほど。真似をするにしても、手本がない」
「あのうちのどちらか一方だけが偽物だなんて、そっちの方が、屋敷に突如現れた不審者との大立ち回りよりもよっぽど滑稽で、お話じみていると思いませんか」
「聞いてたのかよ」
「書斎に入る前に少しだけ。一応確かめたいこともありましたし。いやあそれにしても、ひどかったですね」
「ああ。台本をただ朗読してるって感じだったよ」
「最後は一人で楽しくなっちゃってましたし」
 旦智は曇った窓硝子に一つ、二つ、花瓶を描いた。〈本物と偽物〉――その偽物たち。
「確かめたかったことってのは?」
 カツカツとハンドルに爪を当てながら、水下は問う。
「本当に彼が犯人なのかを、ですよ。小指の火傷だけじゃあ、流石に証拠としては薄いでしょう」
「小指?」
「……見てなかったんですか。水下さんが盛大にこぼした紅茶のことですよ」
「あれはお前がこぼせって言ったんだろう」
「いいえ? 僕は〈こぼしたりしないでくださいよ〉と言いました」
 舌打ちの漏れた水下がバッと後ろを振り向くと貼り付けたような笑顔の旦智とばっちり目が合う。数秒間、互いが互いを見つめ合う。こんなとき、折れるのはいつも水下の方だった。見習いとして、最低限の弁えだった。再び舌打ちをしながら、前へと向き直る。
「あのとき剥ぎ取った手袋の中……彼の小指には、目立たないものの小さな火傷痕がありました」
 自分の小指をいじりながら、旦智は続ける。
「ここの火傷は陶芸家がよくやるんですよね。習い始めはもちろんのこと、何十年と続けた老練な方でも……彼は後者だったようですが」
「陶芸家……なるほど。自分で作った花瓶を自分ですり替えたってわけか。両方とも」
「二階の奥へ行くと窯が備え付けられた部屋がありましたよ。水下さんにも見せたかったですね。床一面に置かれた、〈本物と偽物〉の偽物たちを」
「……偽物の、そのまた失敗作、ね」
「何十何百と同じものを求めて作り続けていたんでしょうね。全く同じ二つの花瓶を。だからこそ、そんな偽物は薄くしないといけなかった」
「というと?」
「山本さん――ほら、使用人さんがいらしたでしょう。彼女がこぼしていたんですよ」
「紅茶を?」
「……〈厚みのある作品の方が壊れやすい側面も孕んでいるんだと旦那さまは仰っていました〉」
「はん」
「焼き物をやったことがない人からすれば、肉厚のある作品のほうが丈夫で、壊れにくいんじゃないかと思うのが普通でしょう」
「そうだな。……なんだよ、薄い方がああいうのは長持ちするものなのか?」
「いえ、一概にそうとも言い切れません。厚い作品が壊れやすいというのは、形に無理があったり、焼き上げる前の段階で中に空気が入ってしまい易くなるから……それ以外の点は、一つ一つの作品を丁寧に作っていれば、大して問題にもならないことです。己が信念を象った平坂偽物が、〈本物と偽物〉にその程度の手間も惜しむとは、到底思えませんね。〈偽物も軽んじるべきではない〉、ですよ」
「となれば……小林優郎は、素人でも、一つ一つを丁寧に作り上げる陶芸家でもないってことがわかる、と」
「あれほどまでに似た二つの作品を腰を据えて作るほどの腕前はなかったのかもしれませんね。だから、彼は見方を変えた」
「数撃ちゃ当たる。めくら滅法に花瓶を作りまくったってわけか。その中のどれか一組でも似ていれば目的達成、か」
「ええ」
 首肯し、旦智は窓硝子から指を離す。そこにはいつの間にか、十数個の花瓶が描かれている。どれもほとんど同じ形、どれもほとんど同じ色。そして、どれもが正しく、偽物。
「あとですね」
「まだなんかあるのか」
「〈本物と偽物〉に描かれている花、なんだったか覚えていますか?」
「ええっと、たしか……カキツバタ」
「その通りです。でも、あの花瓶に描かれていたのは、菖蒲あやめでしたよ」
「……」
 言葉に詰まったように水下は数秒間肩を震わせていたが、それでもしまいには我慢できずに吹き出してしまう。
「くっ、はははは、なんだよそりゃ」
「あははは」
 ひとしきり笑った後、ひっひとふるえが止まるのを待ってから、「それにしても」と水下は切り出した。
「小林優郎は、なんでまた、こんなことをしたんだろうな」
「え、と……それは」
「だって、そうだろう? そんな苦労してやっと〈本物と偽物〉の偽物を作り上げたのに、旦智に壊されて……ああ、もしかすると、〈本物と偽物〉の本物として誰かに売りつけるつもりだったのかもな。阿漕な奴だぜ」
「違う」
 咄嗟に、旦智は否定する。気分を悪くしたように、人差し指で眉間のあたりをコツコツと突いた。
「だって、もしそうだとしても、それは僕たちを雇った理由にはならない」
「……まあ、たしかにな」
 先程までとは打って変わって、車内には沈黙が流れる。聞こえるのは、低く震えるエンジンの音と、ブオオと唸る空調。そして。
 ピルルルルル。
「鳴ってますよ」
「あたしのじゃねえよ。というか、運転手に電話を取らせようとするなよ」
 旦智は苛立たしげにポケットから携帯電話を取り出す。灰色の人型に、見たことのない電話番号が光っている。不審げな表情をしつつ、その緑色を擦ると、サアアという雑音に混じって向こう側の声が聞こえてくる。
 小林優郎。
 〈本物と偽物〉。
 そして、その偽物。その理由。
 カキツバタ。
 菖蒲――花言葉は、〈メッセージ〉。
「届いたかな。〈度胸探偵〉」
「……なるほど」
 旦智ほんものを、見破るため。
「他でもないあなたに依頼したいことがあるんだ。引き受けてくれるかな」
 屋敷で聞いたものとは印象の違う優郎の声が、旦智の耳へ届く。
「勿論。引き受けますよ」

「これ以上なく大胆に」
 そう言って彼女は、不敵に笑った。
スポンサーサイト
第三十六回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2019.01.10(Thu) 00:55

偽典天地創造

 三千年ほど前の楚国に盾と矛を売る者がいた。
 彼は自分の盾のことを誉めて言う。
 私の盾の頑丈なことといえば、突き通すことができるものはない。
 またその矛を誉めて言う。
 私の矛の鋭いことといえば、どんな物でも突き通すことができないものはない。
 それを聞いていたある人は、 あなたの矛であなたの盾を突いたらどうなるか、と問うた。
 その人は答えることができなかった。
 この盾が本当に突き通すことができるもののない盾だったのか、またこの矛がどんな物でも突き通すことができないものがない矛だったのか、これらが本物なのか偽物なのか、知る者は誰もいない。

 ***  ***  ***

 一方、ウン億だかウン兆だかとにかく人類の理解の及ばぬ昔、ぽっと出の神は無限に広がる虚無の中にいた。
「なんもな」
 神は天と地とを創造した。地は形なく、虚しく、闇が淵の面にあり、神の霊が水の面を覆っていた。
「よく見えねえ」
 すると光があった。神はその光と闇とを分け、光を昼、闇を夜と名づけた。一区切りついたので昼寝した。第一日である。

 昼寝から目覚めた神はやはり上にもなんかないと締まらないなと感じ、天を造った。途中何度か寝落ちした。第二日である。

 寝落ちていた神は気付くと水の中におり全身びっしょびしょになっていた。ブチ切れた神は絶対に濡れない場所を作ろうと地をこねこねし、その乾いた地を陸と名づけ、水の集まった所を海と名付けた。
 陸を造ってテンアゲな神は至る所に草を生やしまくった。
「ええやん」
 気付いたら徹夜だった。第三日である。

 神はこの調子で働くと何徹になるか分からんことを恐れ、太陽、月、星を造って天に設置した。太陽が設定通りに昇るかどうかわくわくしながら寝た。楽しみがある日の前夜はなかなか眠れない自分を見出した神だった。気付くと太陽が昇っていた。第四日である。

 寝不足の神はしかしクリエイターズハイ状態であった。水生生物と鳥を怒涛の勢いで作った神はこれらを祝福して言った。
「生めよ!殖えよ!海たる水に満ちよ!あっ待って違うわ鳥は海じゃなくて地に殖えよ!おっほっほーい!グッジョブ!」
 疲れからか気絶するように眠り、夜明けとともに鳥の声で起きた。神はめっちゃええやんとされた。第五日である。

 陸上が寂しかったのでなんか置くかと神は思った。
「広すぎるでしょこれ。よく造ったなこんなん」
 神は陸上生物を種類に従って造った。神は見て、良しとした。アイディアを使い果たし若干時間を持て余した神は、自分の形に人間を創造した。なまじ言葉を使える人間はなんか景気付けの挨拶くらいしてくれと迫ったので、神は若干飽きつつも彼らを祝福して言った。
「生めよ、殖えよ、地に満ちよ、地を従わせよ。全ての生き物を治めよ。あと全地の面にある可食部のある全ての草と全ての木とを与えるから食え。他の草は動物にあげる」
 そのようになった。神は造った全ての物を見たところ、我ながら力作過ぎると思った。作るものがなくなったのでごろごろし、そのまま寝た。第六日である。
 こうして天と地と、その万象とが完成した。

 神は第七日、その全ての作業を終えて丸一日森羅万象を眺めてぼんやりすることにした。とはいえ、自ら造ったものが造った通りにうろうろもぐもぐしているだけなので次第に神は飽きてきた。神は消しカスを練る小学生のように塵を集めてこねこねし、適当に自分に似せた形にしてこれに命を与えた。塵だったものは一頻り身体を動かしてみてから神を見上げた。
「お前は自分が何者か分かるか」
 神は問うた。
「強いて言うなら塵ですね」
 塵だったものは答えた。
「違う。素材じゃなくて。名前と能力及び役割」
「名前はありません。貰ってないので。能力的にはざっくり言うと神の劣化コピーの劣化コピー、でも人間よりマシ、的なあれです」
 神は察した。明確に定義せず適当に作ったものはこうなるらしいと知った。神は暫く考えてから、それをアパテオナスと名付けた。語感がよかったからである。
「アパテオナス。わたしの心を満たせ」
「無理っす」
 即答であった。神は文句という概念を見出した。
「そう言わずに」
「だってそもそも心ってなんですのん」
 なるほど真っ当な意見だと神は感心した。自らの中に問いかけたところでそれに対する答えは見いだせなかった。より正確な言葉を神は求めた。
「楽しい感じにしてくれればなんでもいいと思う」
「おう任せろ」
「強気か」
 アパテオナスは手近なところからエノコロクサを一本手折った。
「はい、これなーんだ」
「エノコロクサ」
「正解」
 アパテオナスは言葉を切った。発言権を巡る会話中の空気の読み合いとそれに伴う気まずさが生み出された。
「……終わり?」
「終わり」
「びっくりするくらい面白くねえ」
「神よ。それこそが驚きという感情です」
「驚きの感情は知ってるし多分それじゃない」
「というか神よ。わたしは自らがアパテオナスという名であることを受け入れました。しかし、能力と役割については何も知らないままです。わたしに何ができるのか、何をなすべきなのかをお与えください。なるべく簡潔に、それでいて具体的に」
「具体的にったって――」
 言いかけて神ははたと思い至った。この無茶ぶり具合は自らがついさっきアパテオナスに吹っかけたものと同じ匂いを醸し出していた。
「なんかごめん」
 アパテオナスは僅かに首を傾げただけだった。
「えーじゃあ……物事を定義づける能力を与えます」
「定義とは何ですか」
「自分で定義できるべ」
「はーん、なるほど。賢い」
 アパテオナスは定義を定義した。だがそれを口にしていちゃもんつけられるのもムカつくので黙っていた。これによってあらゆる定義は人間から、そして神からも隠されることとなった。アパテオナスは次々に概念を定義していったが、しかしそれらはアパテオナス以外の何人にも知られることはなかった。
「では、わたしに役割を与えてください」
「わたしを楽しい感じにしてください」
「だからそれさっきも――あー、はあはあはあ。そういうやつね」
 アパテオナスは分からないところを自力で定義しまくって強引に理解した。神はそれを見て良しとした。
「ネタ見せいきます」
「はいどうぞ」
 わくわく、とチープな棒読みで神ははしゃいだ。
「はい、これなーんだ」
「……いやそれさっきのエノコログサ」
「ぶっぶー。違います」
 アパテオナスのチープな効果音に共感と一抹の無力感を覚える神だった。
「これは魔法のスティック」
「杖じゃなくて棒」
「わたしのステッキの定義と違うんで」
「あ、そう」
 定義と違うと言われてしまうと返す言葉もなかった。神は展開を見守ることにした。
「で、その魔法のスティックは」
「触れたものを本物にします」
「急にややこしくなった」
「大丈夫です、全然難しくなんかない。ひとつずつ見ていけば分かりますよ」
 アパテオナスは教えるのも上手だった。人間が教えるという行為に長けているのはひとえにアパテオナスの能力が高かったからである。自分だけだったら恐らく人類まだ火も起こしてなかったんじゃん、と後に神は語った。
「さてここに取り出しましたのはりんごの枝」
 アパテオナスは適当にりんごの枝を折った。もうちょっと大切にせんかいと神は思った。
「これをスティックで撫でます」
「ほう」
「舐め回すように撫でぃ回すます」
「噛んだろ今」
「噛んでないですよ。撫でぃ回すんですよ」
 アパテオナスは感情が顔に出まくるタイプだった。
「撫でぃ回すのな。どのくらい」
「舐み回すように」
「舐み回すようにな」
「ええ舐み回すように」
 最早突っ込む必要はなかろうと神は判断した。こんなに長い一日もなかった。神は退屈していた。
「はいできました」
「何が」
「本物のりんごの木の枝です」
「うん圧倒的にややこしくなった」
「もう全然ややこしくない。大丈夫大丈夫」
 アパテオナスは無駄にりんごの枝を撫で回し、いや撫でぃ回しながら言った。
「これは本物のりんごの枝。さっきまでのはただのりんごの枝」
「違いが分からない」
「本物かそうでないかです」
「本物じゃないりんごの枝はりんごの枝じゃないだろ?」
「いやりんごの枝ですね」
「あれれ。神、お馬鹿になっちゃったかな。マジで何言ってんのか分かんない」
「……これだから万能は」
 しれっと悪態をつかれた神は流石にムッとした。だが何を言っているのか分からないので黙っていた。それって万能かな、という疑問が神の脳裏を過ったが、まあなんかそんな万能があったっていいんじゃないかと開き直ることにした。
「まあいいです。これは撫で回したものを本物にするスティック。そしてこっちが、つつき回したものをモノホンにする枝」
「さっきのりんごの枝やん」
「いや、これはつつき回したものをモノホンにする枝」
「もう無理、神さま限界」
 実際神はそろそろ限界だった。
「本気を見せろ万能の創造主」
「違う、焚きつければいいって問題ではない」
「使えねえ神だな」
「おう塵に帰すぞ」
 アパテオナスが速攻で赦しを乞うたので、神はそれを赦した。
「ノーモア塵ライフですね」
「なんて?」
「なんでもないです。この触れたものを本物にするスティックでつつき回したものをモノホンにする枝を撫でぃ回すと」
「読めた」
「本物のつつき回したものをモノホンにする枝になります」
「やっぱり」
 ところでモノホンとはなんだろうと神は思った。そのように言ったところ、アパテオナスはこれだから万能はという顔をしたので神は引き下がった。
「モノホンとは本物のことです」
 むっつりしながらも教えてくれるアパテオナスに神は若干親しみを覚え始めていた。
「モノホンと本物とどう違うんだ」
「同じですね」
「じゃあモノホンは本物なのでは」
「やれやれ。本物のりんごの枝と本物じゃないりんごの枝の区別もつかない人には難しかったですね。あ、本物のりんごの枝と本物じゃないりんごの枝の区別もつかない神か」
「そろそろ泣きそう」
「でもってこの花が」
「話聞けよ」
 アパテオナスは神をガン無視して今度はハナズオウの枝を手折った。
「ねえそれ大切に生やした俺のハナズオウ」
「これを」
「話聞けよマジで」
「こ、れ、を」
「わかったもう言わん」
「これを持っててください」
 アパテオナスが言ったので神はそのようにした。神は相当面倒くさくなってきていた。最早早く日が暮れないかな、ちょっと早めちゃおっかな、などと思い始めていた。
「そんで、これをスティックで撫で回しつつ」
「おっ言えてる」
「……撫でぃ回しつつ」
「ごめんて」
「この枝でつつきつつ」
 アパテオナスはハナズオウの枝をエノコロクサで撫ぜ、またりんごの枝でつついた。ハンダ付けみたいだなと神は思った。ハンダ付けがこの世界に登場するまでにはまだまだ長い歳月が必要だった。神は暫しこの世界の遠い未来に思いを馳せた。ハナズオウの枝の調理は十分ほど延々続いた。
「はいできました」
「時間かかったな」
「はい貸して」
 出来上がったハナズオウの枝をアパテオナスは受け取り、これを良しとした。アパテオナスは神を見つめた。
「神よ」
「あっはい」
「今思ったのですが、神とはなんですか?」
 突然の問いに神は面食らった。そして自己について考え始めた。後の世にも残る自己分析というものが世に生まれた瞬間であった。うんうん唸って絞り出した結論の薄っぺらさに神は早くも憂鬱を見出しつつあった。
「世界、作った系の存在だけども。あと、何? 世界を自在に変えれちゃう系?」
「あとは?」
「あと? えー分からん。そんなもんじゃねえの」
「よし。ていっ」
 アパテオナスは徐に振りかぶると、ハナズオウの枝を神に投げつけた。ハナズオウの枝はばさりと地面に落ちた。
「いてっ。おい。流石に怒るぞマジで、塵に帰すぞ塵に」
「神よ。今投げつけたのは投げつけると投げつけられたものが偽物になる枝です」
「なんて」
「投げつけると、投げつけられたものが偽物になる枝」
「冗談だろ?」
「いいえ。わたしには物事を定義する力がある。本物と偽物とを定義し、分かつことができる。わたしは最早塵ではない。あなたを楽しい感じにしました、神よ。いや、既に偽神となった過去の神よ」
 神は立ち尽くした。アパテオナスは初めて、笑った。
「ええ。ええ。あなたは神ではなくなった。わたしはアパテオナスだが、神ではないものではない。わたしが本物の神になりましょう。わたしは自らを本物の神と定義し、今、唯一本物の神として成立する」
 アパテオナスは手にしたままのエノコログサを飲み込んだ。エノコログサはアパテオナスの体内を撫ぜた。また、アパテオナスはりんごの枝を噛み砕き飲み込んだ。りんごの枝はアパテオナスの体内を刺した。アパテオナスはいよいよ哄笑した。
「新たな神であるわたしは、この大いなる第七日を祝福しよう。これを聖別しよう。神がこの日、その全ての創造を終わって休まれたからである。また新たな神が本物となり、世界を創り給うた神が偽物となったからである。わたしはこの日を祝福しよう!」
 アパテオナスという名を持つ神は、笑いながらどこかへ去っていった。一方取り残された偽物の神は、足元に落ちたハナズオウの枝を拾い上げた。
「お前は定義付けられていたよ、アパテオナス。わたしの大いなる暇を潰すもの。お前が生まれ、命を吹き込まれたその時に。お前がこの世界を引っ掻き回すのを見るだけなら、わたしは本物の神でなくともよい。それに」
ふふ、と偽物になった神は、初めて笑った。
「お前の定義は、わたしの与えた名を抜きにしては語れない。……人間は偽物の神を崇め続けるだろう。あれはわたしを崇めるように作られた生き物なのだから」
 彼はアパテオナスの去った方向をじっと見つめていたが、やがてそこに日の落ちるのを見届けると、横になって眠った。

 ***  ***  ***

 これが天地創造の由来である。
 今我々が崇めている神は、如何なる名も持たないのか、或いは別の名を持つのか、その神は本物なのか偽物なのか。
 それを知る者は誰もいない。
第三十六回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2019.01.10(Thu) 00:37

影の価値

 偽物とは、影のようなものだと思う。本物がなくては存在しえず、形も本物に従う。そして偽物という影が生まれるのは高い価値を持ち。光の下にあるものだけ。

 そのせいだろうか。影と日陰モノばかりの私の部屋は、昼でもどこか薄暗い。

でも、私に不満を持つ資格はない。本物の輝きで生活を満たせるほどの稼ぎがないばかりか。偽物を作ってわずかとはいえお金を得ているのだから。

 私は食品加工会社で事務員として働くかたわら、ブランド服のコピー品を売って小遣い稼ぎをしている。

 手芸品の販売を始めたのは大学三年生の頃。当初の目的は暇に飽かせて作りすぎた服や小物の処分だった。手芸歴五年(当時)程度の私の作品が本当に売れるのか、疑問に思いながらショップサイトに登録したのを今でも憶えている。

予想に反して、私の作った物たちにはそこそこ順調に買い手がついていった。価格を相場よりだいぶ低く設定していたためだろう。

でも、私の作品にお金を出してもいいと思ってくれた人がいたのだ。それが何よりも嬉しかった。

それから私は売るために服を作るようになった。何がよく、より高く売れるのか模索するうち、辿り着いたのがコピーブランドだった。

手にしていたチャコペンを置くと、私は大きく伸びをした。今日の分はこれで終わり。明日この続きから始めるつもりなので、布や道具は簡単にまとめるだけにする。

私はカーテンを閉め、ストーブの設定温度を一度上げると、携帯端末を手に取った。

放置していた端末には、高校以来の友人、井原舞からのメッセージが届いていた。舞とは時々遊ぶ仲で、メッセージのやり取りもそれなりにあった。いつも通りの他愛ない話か、それとも遊びの誘いか。そう思いながらアプリを開く。

だけど、今回はそのどちらでもなかった。

『彩乃にどうしても頼みたいことがあるの。近いうちに会えないかな? 連絡待ってます』

 舞とは八年近い付き合いになるが、こんなメッセージは初めてだった。何かあったのだろうか。なぜ肝心の頼みの内容を送ってこないんだろう。疑問はいくらでも湧いてきたが、それをどう文章にまとめればいいかわからず、私は彼女に電話を掛けた。

 受信時刻が二時間以上前なので出ないかもしれない、と一瞬思ったが、杞憂に終わった。

「はい。井原です。わざわざ電話くれたんだね」

 電話口の舞は普段と変わりないようだった。念のためトラブルにでも巻き込まれているのか訊いてみたが、彼女は笑って否定した。用件は緊急でも重大でもないらしい。でも、電話や文章じゃ伝えきれないから、と何をどういう意図で頼もうとしているのかは教えてくれなかった。それを知りたければ直接会うしかないようだ。

 二人の休みが合う日はなかなかなく、急だが翌日合うことになった。

 

 久しぶりに見る舞は、とてもキラキラしていた。

もともと華やかな顔には丁寧に化粧を施し、スタイルの良い少し小柄な体には流行りの服を品良く纏っている。まるでファッション誌から抜け出たみたいだ。

「やっほー。会いたかったよ、彩乃」

「久し振り」

 駅前で待ち合わせた私たちは、近くの喫茶店へと移動することにした。道すがら舞は近況を尋ねてきた。込み入った話を歩きながらする気はないらしい。

「最近仕事どう? 何か変わったこととかある?」

「全然。商品作ってる人たちならともかく、事務は同じような日々の繰り返しだよ。売り上げは伸びてるらしいけど、こっちにはあんまり還元されないし。面白いことなら舞の方が多いんじゃない?」

 舞はブティックで働いている。しかもそんじょそこらの服屋ではない。庶民には背伸びどころか垂直跳びが必要な高級ブティックだ。

「こっちも特にないなあ。毎日服やバッグ売ってるだけ。副業の方は?」

「特に。変わらずゆっくりやってる」

「そっか。彩乃の会社は副業規定ないんだっけ」

「あるにはあるけど超ゆるい。とりあえず仕事仲間に売りつけなければ大丈夫。金額についても一応は限度があるけど、大した利益出てないから関係ない」

 ちなみに会社の人にはコピーブランドの部分は伏せ、ハンドメイド品を売っているとだけ言ってある。

 喋っていると時間の進みは早く、気づけば目当ての喫茶店に着いていた。カラフルでこじゃれた店内は若い人たちで賑わい、あちこちで弾んだ声とカメラのシャッター音が聞こえた。

 席に案内され、注文を終えると、私は昨日からずっと抱いていた疑問を口にした。

「で、頼みたいことって何?」

「いきなり訊いちゃう?」

「あんなメッセージ来たら気になるよ。電話でもはぐらかされたし」

 今日舞と会ったのだって、ほとんどこれが目的だ。私の声に張り詰めた調子を感じたのか、舞はすぐ本題に入った。

「あのね、ある服のコピーを作ってほしいの。とってもそっくりなやつ」

「え、なんで?」

「ほしいけど、手が届かないから……。これなんだけど」

 そう言うと、舞は携帯端末をこちらへ差し出してきた。画面には、空色のワンピースが表示されていた。

 なるほど。確かにかわいい。形はややドレス寄りだが、柔らかそうな生地と淡い色合いが晴れの場めいた優美さを日常に繋ぎ留めている。

舞が惚れ込むのも頷ける。私だってちょっと着てみたいくらいだ。

けれど、私には納得できないことがあった。

「素敵。だけど珍しいね。舞がコピー品を欲しがるなんて」

 私の知る限り、舞がコピー品を持とうとしたことは一度もない。彼女はむしろ本物には本物にしかない価値があると考える人だった。現に今も本物だけを売る店に勤めている。

「今回は特別。お店に置いてあるから仕事のたびに嫌でも目に入るんだよね。ねえ、引き受けてくれる? お礼は弾むから」

 続けて舞が提示した金額に、私は息をのんだ。

「五桁もいいの?」

「そんなに驚くかな。本物はゼロがもう一つ多いし」

「知り合いにあれ作ってとかこれをリメイクしてとか頼まれることあるけど、ほぼみんな友達価格って言って微々たる額しか払おうとしないよ。ひどい時はタダでやれって言ってくるし」

「大変だね。で、やってくれる?」

 最初は面食らったものの、だんだん友人の珍しい願いを叶えてやりたくなってきた。支払いをしっかりすると言ってくれたのも好感が持てる。

「服のデータはある? 寸法とか材質とか」

「うん。持ってきた」

 舞から受け取ったプリントにざっと目を通す。少し難しいが、やってやれないことはなさそうだ。ワンピースは春物のようなので、今から作り始めれば出番の時期に十分間に合うだろう。

「わかった。やってみる。でも私、素人だからクオリティはたかが知れてるよ」

「それでもいい。お願いします」

 代金は完成品を渡すときに、と約束してこの件は終わった。

 服の資料を鞄に詰め込んでいると、注文品が運ばれてきた。

 それから二時間、店で一番人気だというココナッツパンケーキを食べながら、私たちは他愛ないおしゃべりに興じた。

そして店を出ると駅で別れた。本当はもっと遊びたかったのだが、二人とも次の日は仕事だった。

 

 電気をつけた部屋で、ノートを前に私は悩んでいた。

凝った物や馴染みのないものを作る前には、必ずサイズや素材を細かく記した設計図を描くことにしている。なくてはならない大切な作業だが、私にとっては一番大変な工程だった。

今回は細かい寸法や布地の種類が載った資料を貰えたが、だからと言って楽に事が進むわけではない。作り手には縫いしろが必要だし、高級で上質な布の代わりとなる素材を探さなくてはならない。おまけに、今求められているのは精巧なコピーだ。

はっきり言って、私の作ってきたコピーはどれも二流、三流の品だ。ブランドロゴがついていないし、材料は安物で縫製もさほど丁寧ではない。ロゴに関しては法を気にしてのことだが、後者は妥協と技術不足だ。

それでも、文句を言われることは少ない。注文を受けず、勝手に作って勝手にネットで出品する、という販売形式や安めにした価格のおかげだろう。

だが、今回は高いお金をもらう以上、普段のような雑な仕事をするわけにはいかない。加えて友人からの依頼だ。できれば良いものを提供したい。

縫う方は私が頑張ればいいとして、問題は生地だ。どこから調達しようか。

しばらく頭を捻っていると、ピンと閃くものがあった。他の「本物」を利用すればいいのだ。

それからの私は仕事帰りや休日、古着屋や中古品店をうろつくようになった。素材として使えそうなブランド服を探すためだ。

最初はすぐに適当なものが見つかるだろうと軽く考えていたが、ずらりと並ぶ服たちを眺めるうち、こだわりが頭をもたげてきた。

同じ水色系統でも目を凝らせば濃いもの、淡いもの、鮮やかなもの、白の混じっているものなど無限のレパートリーがあった。生地にしてもそれぞれ厚さや柔らかさが異なり、ひとつとして同じものはなかった。

中古とはいえ、良質なものはやはり値が張る。政策予定のワンピースは完全な単色ではないので、古着は数着必要だ。別にこの仕事から利益を得るつもりなどなかったが、元手が大きく割れるのはごめんだった。

あれこれ悩んだ挙句、私はシミや汚れのついた高級服に目を付けた。布は服から切り出して使うつもりなので、一部が多少汚れていても問題ない。選択肢も絞れて、迷う手間が少し減った。

ワンピースづくりに必要なのは、布だけではない。

古着迷宮の合間に、手芸用品店へも足を運んだ。ファスナーは古着のを流用することにして、私は少しリッチな針と糸を購入した。

いつもなら用を足した後もウィンドウショッピングにいそしむ私だが、気づけば早々に店を後にし、古着の巣窟へと向かっていた。

手芸品店に整然と陳列された商品は、どれも材料として何かの一部になる日を、あるいは道具として何かの役に立つ日を待っている。

現段階では何物でもないそれらが真価を発揮するのは買われた後だ。価値が現在ではなく未来に決まるというのは素敵かもしれないが、今眺めるには味気ない。

それに比べて、古着屋の品々はすでに出来上がっており、多かれ少なかれ価値をその身に宿している。

本物と、偽物を作る意義がないため本物と呼ぶまでも無いモノたち。それらの煌めきと仄暗さとが織りなすまだら模様の方が、私には魅力的に思えた。

そうして、舞とも相談しつつ、何日もかけて私は材料を見繕った。

 

 材料が揃うと、私は制作に取り掛かった。

 寸法をチェックして線を引き、裁断して縫う。やることはいつものコピー作りと同じだ。普段と違うのは布の出所と、私の姿勢だけ。

 本物と偽物との間にある溝を埋めることに、私は執着した。これには、舞からの依頼だからというのもあるにはあったが、どちらかというと布にこだわったせいみたいだった。スイッチが入ってしまったらしい。

 ネット販売用のコピーそっちのけで私は舞の一着にのめりこんだ。

わずかなズレをも許さず、何度も物差しを当てなおし、肝心な時に折れるチャコペンの芯を憎んだ。周囲が滑らかになるようハサミの扱いには細心の注意を払った。縫製に際してはミシンの針送りを遅めにし、たるまないよう押さえる手と見張る目に意識を集中させた。疑問が生まれればすぐさま舞にメッセージを送り、返信が来るまでの間、ひたすらヤキモキとした。

精密な作業は全く苦にならなかった。それどころか、細部に敬意を払って為す動作の一つ一つが私を高みへと導いてくれるようだった。

私はやがて、自分が本物を作っているかのような錯覚に襲われるようになった。布切れがワンピースの形を成していくにつれてその頻度と強度は増していった。

最初こそ自惚れるなと自分を律していた私も、ほどなく妄想に膝を屈した。ずっと「本物」の価値のおこぼれを舐めるように、ちゃちな偽物を作ってきた身だ。自身の手から真に価値のあるものが生まれる感覚はこの上なく甘美で、逃れるべくもなかった。

模造に時間を割けるのは休日だけなので、私は週末を待ち焦がれるようになった。仕事に身が入らなくなり、ふとした瞬間、なぜ自分はミシンや布でなくパソコンや紙に触れているのだろう、という声が頭をよぎった。

幸い仕事内容は曜日ごとにほぼ決まっているので大きなミスを犯すことはなかったが、それにも達成感や喜びはなかった。私はただ安堵するだけで、副業に心を向けていた。

灰色の平日と空色の休日を繰り返し、梅の花が咲く頃ワンピースは出来上がった。

 

 写真付きで完成を知らせると、舞は喜んで電話を寄越してきた。前と同じように互いの予定を擦り合わせ、受け渡しの日を決めると遅れて達成感がやってきた。

 連日の本業と副業で疲れ果てているはずなのに、高揚感がとめどなく湧き上がってくる。いてもたってもいられず、スーパーでお酒や総菜、お菓子を買い込んで一人祝杯を挙げた。

 コピー制作が一段落しても、事務仕事への熱意はしばらく戻らないようだった。今度は舞と会うのが待ち遠しく、平日をやり過ごす日々が続いた。

 待ちに待った約束の日、私は前と同じ時間、同じ場所にいた。片手には自画自賛ながら本物と遜色ないほど精巧なコピーが入った紙袋を提げている。

 少し遅れて来た舞はこの前と違い、全身をシックにまとめていた。寒さも和らいできたのだし、もっと明るめでもいいのにとは思うが、別に寂しい印象はない。舞自身が華やかなオーラを纏っているせいだろうか。

「久し振り。思ったより早くてびっくりしちゃった。ありがとね、ホント」

「いいって。私も久々に作ってて心から楽しいと思えたもの」

 駅を出て、舞の案内でこの間とは逆方向へ進む。最近リニューアルしたカフェに連れて行ってくれるらしい。

「もしかして、私のために他のコピーの仕事、断ってた?」

「勝手に作って専用サイトに出品するだけだから、断るも何もないよ」

「でも、そっちの手を止めてこっちに集中してくれたんでしょ」

「まあ、そうだけど、私が好きでやってただけだから気にしないで。あれはほとんど趣味で大した利益出ないし、日々の生活には事務員の給料だけで十分なんだから」

「ならいいけど」

 空は寒気を含んだように白っぽかったが、濁りの奥には春らしい青みがうかがえる。道行く人たちの服装も幾分軽やかになっていて、みんな少し痩せて見えた。

 十分とかからず着いたカフェで早々に注文を済ませると、私たちは本題に入った。

「はい、ワンピース」

「ありがとう」

 舞は中身を一瞥しただけで、すぐに紙袋を備え付けの荷物用かごに入れてしまった。

「袋から出して確認しなくていいの?」

「いいのいいの。写真で見たし、彩乃のこと信頼してるから。それで、お金のことなんだけど、最初に言った額で足りる?」

「大丈夫だよ」

 私は購入した材料のレシートをテーブルに広げた。

「これじゃ、彩乃の取り分がないじゃない。代金ほぼ材料費で飛んじゃう」

「もともと舞から高いお金取る気はなかったし、今回は私もいろいろ勉強になったから」

「そう? じゃ、お言葉に甘えて」

 舞からお代の入った封筒受け取ると、私はしっかり紙幣の種類と枚数を確かめた。

レシートと一緒に封筒を鞄に仕舞ってから、露骨にお金を数えるのは失礼だったかと気づき、慌ててごまかすように領収書を書いた。手帳の空白ページにボールペンで「材料費として¥△△△△△円頂きました」の一文と必要事項をちりばめただけの即席領収書に舞は微妙な表情を浮かべたが、何も言わずに受け取ると、自身の手帳に挟んだ。

 私が決まり悪くて黙っていると、ちょうどコーヒーと季節のケーキのセットが運ばれてきた。立ちのぼる香ばしい湯気と甘い匂いが気まずい空気を追い払っていく。ぎこちなさが取り払われると、私たちはいつものように話に花を咲かせた。

 いくつ目かの花がしぼんだ時、舞がふと口を開いた。

「ちょっと気になったんだけど、今日会うまでの間に彩乃のコピーに対する見方、変わった?」

「え、なんで?」

「私が最初にコピーを欲しがった時、なんか抵抗があるみたいだったから。ちょっと嫌がってるんじゃないかって思ったぐらい。でも今日は全然そんな感じしないから……」

 指摘されるまであまり自覚していなかったが、確かに舞の言うとおりだ。以前の私は自らの手で偽物を生み出しながら、その偽物を買う人間をどこか軽蔑していた。はした金で外見だけ取り繕って虚栄心を満たそうとする人たち。私は彼らのことをそう思っていた。でも、その考えはちっとも正しくなかった。

 そっくりワンピースづくりの中、自分の手で価値を生み出す喜び、そして価値のあるものを作れる自分にもまた高い価値があるのではないかという強い自己肯定感を味わうに至ってようやく彼らの気持ちがわかった。

 彼らもまた本物が持つ価値の輝きに憧れていたのだ。

 本物に手の届かない身でありながら光彩に恋い焦がれるのは身の程知らずといえるかもしれない。だが、せめてものこととばかりに微光へと手を伸ばす彼らを、もはや見下す気にはなれなかった。

 とはいえ、そんなことを長々と語れば引かれてしまうだろう。

「舞が偽物を欲しがるなんて初めてだから、不思議に思っただけだよ。その前にもらったメッセージもなんか変だったし。そんなに私、気乗りしなそうだった?」

 私は当り障りのないことを口にした。舞は納得してくれたようで、次の話題に移っていった。

 私たちがカフェを出る頃には、既に日が傾いていた。二人とも次の日は休みだったが、舞がワンピースを気にしているようだったのでそこで別れた。

 なんとなく物足りなくて、私はカフェや駅の周辺を散策していくことにした。

 様々な店とそこに並ぶ品物や人は、見ていて飽きない。気が付けば、すっかりあたりは暗くなっていた。

夜になっても都会の街では星は見えず、店々の隙間から漏れるBGMばかりがやたらと大きく聞こえた。多様な店内音楽は私の耳の中で混じり合い、いつしか高らかな勝ちどきに変わっていた。それは電飾でできた地上の星たちが本物の夜空に対して挙げる凱歌だった。

心地よいメロディは私の耳の残り、家につくまで幾度となく頭を掠めた。

 

舞にそっくりコピーを届けて一息つくと、今度は気力を持て余すようになってしまった。情熱を注ぐものがなくなってしまったせいだろう。

とりあえず仕事で発散しようとしてみたが、私の仕事は事務である。自主的にできることなんてたかが知れているし、完全な個人作業ではないのでタイムトライアルも難しい。

前のように手芸に打ち込むのはどうか、という頭の提案は心が拒否した。今はまだ余韻に浸っていたい。針や糸を手にしたら最後、達成感が失われてしまいそうで怖かった。

適当に本を読んだりドラマを観たりしてみたが、どうもしっくりこなくて悩んでいたある日、見慣れた社員食堂の隅で、ふと目に留まるものがあった。

段ボール製の箱で、前面がA5用紙サイズ、奥行きは私の人差し指くらい。上には長方形の投入口が開けられており、手前の面には「新商品アイディアポスト」と大きく書いてある。

 しばらく箱とにらめっこして、ようやくそれが何か思い出した。

 だいぶ前に企画部が設けたもので、確か商品開発に新しい視点を、というコンセプトだった気がする。その理念通り社内の人ならだれでも投函可能で、設置当初は割と大きく騒がれた。だが前評判のわりに利用者は少なく、今では埃を払われることもなく放置されている。私も目にするまでその存在をすっかり忘れていた。

 でも、一度目についてしまったものを意識から追い出すのは至難の業だ。それならばいっそのこと、隙間埋めに利用してしまおう。

 その夜から、私は暇さえあれば新商品のアイディアを考えるようになった。まったく何も無いところから新しいものを生み出すのは難しいので、狙ったのは我が社の二大主力商品であるカニかまぼことソイミートを使った新メニューだ。

 最初はシーフードサラダや大豆肉団子など月並みなことしか思い浮かばなかったが、食事のたびに新しい一品へと思いを馳せるうち、ぽつぽつと閃きが生まれてきた。

 ネギ塩だれをかけて炙ったカニかまぼこ、ソイミートと豆乳の低アレルゲンミートドリア、ソイミートで作ったタネの周りに細切りにしたカニかまぼこを皮代わりに貼りつけた飲茶……。

 こういった玉石混交の思いつきを、私は片っ端からコピーブランド用設計ノートに書きこんでいった。針のかわりに鉛筆を持ち、布ではなく紙に向き合うと、不思議と心にしっくりきた。簡潔な説明文やわかりやすい図を考えるのは全く苦でなかった。

 下書きが気にいると、私は順次コピー用紙に清書していった。応募に用紙の指定はなく、所属と名前と具体的なアイディアさえ書いてあればよい。

 十日のうちに私は七つの案を練り上げた。

 ポストは変わらず食堂の隅にあり、七枚の紙をまとめて放り込むと、積もった埃が舞った。

企画部の人たちはちゃんと定期的に中身をチェックしているのだろうか。投函された新案のうち、いくつかは実際に商品化されたと聞いた憶えはあるが、どうにも疑わしい。

まあ、この暇つぶしは会社の役には立たなかったかもしれない。だが、少なくとも私は平穏な生活を取り戻すことができた。異様な意欲を使い切ることができたのだろう。仕事にも適度なやりがいを感じるようになり、コピー作りも再開した。

とはいえ、申し分なくやり遂げた大きな仕事を短期間できれいさっぱり忘れられるほど、私は淡白ではない。余韻が去ると、今度は舞がちゃんと着てくれているか気になった。

舞からは何の音沙汰もない。こちらから訊くのも気が引けて、彼女の気持ちはわからないままだった。

生活を立て直して一か月ほど経ったある日、ふと思い立って舞のSNSを検索してみた。私はアカウントを持っていないので失念していたが、舞は写真や思い出の共有に特化した、ブログの簡易版みたいなSNSをやっていた。

すぐにヒットした彼女のページを覗くと、そこには数日前の日付とともにあのワンピースを着た彼女の写真がアップされていた。

胸から上しか映っていないが、かなり気合の入った格好をしているのがわかる。髪も化粧もばっちりキマっており、爪にはきらびやかなマニキュアが施されている。ラテだかフラペチーノだかを手に微笑む彼女は、都会の女子の理想形みたいだ。

しかし、私の視線は写真の主役である舞よりも、彼女の服に向いていた。

空色のワンピースは、周囲の人々の目をたやすく集められそうなほど素敵だった。浴びせられる注目に、価値の光沢でもって応えられるくらいの出来栄えだった。もはや本物と呼んでいいくらいだ。コメント欄を見ても、偽物と指摘する声はない。

なぜ私に写真を送ってくれなかったのだろう、なんていうくだらない疑問が急速に遠ざかっていく。代わりに押し寄せてきたのは祝杯を挙げた夜のような、えもいわれぬ陶酔感だった。

自分の繊細な細工に酔いしれるだけでは飽き足らず、私はその週末、舞の勤めるブティックに足を運んだ。思い返せば、実物を直接見たことは一度もない。勝利宣言がてら一ぺん拝んでおこうと思ったのだ。

白を基調とした明るい店内は、置く商品を厳選しているのか、私の行きつけの服屋比べて広々としていた。洗練された雰囲気を呼吸しつつ店内を一周し、カウンターを覗く。

今日は休みなのか、舞の姿は見当たらない。私は曜日で休みが決まっているが、舞はシフト制勤務だ。

目当てのワンピースは壁際のガラスケースの中で、マネキンが見事に着こなしていた。

これが最後の一着らしい。手に取って細部を検めることはできなかったが、これなら本当に私の勝ちと言えそうだ。

ガラスの向こうにある服は、確かにかわいい。だが、どこか散漫な印象で、若い女性を魅了できるほどの輝きはなかった。マネキンが着ていることで生まれる味気無さを引いても、くすんだ感じは拭いきれない。

浮きたつような気分で上品な店内を歩いていると、いつか耳にしたメロディがよみがえってきた。それは舞と最後にあった日の帰り道、街で流れていた歓喜の歌だった。

歩道に降り立っても曲は私の頭の中を流れ続けた。エンディングテーマみたいだと思うと、もうそのようにしか聞こえなくなった。

自宅へ近づくにつれ音量を落としていくメロディに耳を傾けていると、長い夢のようだったこの一件にようやくケリがついた気がした。

舞のSNSを気にかけることもブランドに変な対抗心を燃やすこともなく、安穏な暮らしの中で、いつしか時間は過ぎていった。気温が上がり、近所の公園に桜が咲いても私の日常はほとんど変わらない。

そんなぬるま湯のような日々に亀裂が入ったのは、公園の地面という地面がピンクに染まる頃だった。

その日は土曜日で、私はセーターを編んでいた。もちろんこれも販売目的だが、コピー品ではない。冬、彼氏に手編みのセーターを贈ると宣言したはいいものの、途中で挫折した女の子に売りつけるためのものだ。これが意外に割の良い商売なのである。

少し雑だったり野暮ったかったりする方がそれらしいというので気楽に編めるし、多少強気の価格でも切羽詰まった客は喜んで買っていく。縫物ばかりだと飽きるので、いい気分転換にもなる。

不意にピンポーン、と玄関チャイムが鳴った。

手を止めてインターホンのモニターを覗くと、そこにはスーツ姿の男が二人立っていた。

「はーい?」

どちらにも見覚えがないので遠慮がちに返事をすると、二人のうち片方が、ドラマでよく見かける黒い手帳をカメラにかざして言った。

「警察です。神岡彩乃さんですね」

 

なんで、と思ったが、心当たりがないわけではない。内心はおっかなびっくりながらも、私は他の用件の可能性に賭けて平静を装い、ドアを開けた。

私はてっきり彼らがコピー販売のかどで私を逮捕しに来たのかと思ったが、お縄になったのは舞の方だった。罪名は窃盗罪。「本物」の空色ブランドワンピースを盗んだのだという。

最初は何が何だかさっぱりわからなかったが、任意同行を受け入れて警察の人にあれこれ訊いたり訊かれたりするうち、事態が少しずつ呑み込めてきた。

舞は最後の一着になった空色ワンピースをマネキンに着せる際、監視カメラの死角で私の作った偽物とすり替えたようだ。お客さんの指摘で発覚し、もろもろの調査の末、舞が犯人と断定されたのだという。おおかた、SNSと指紋から足がついたのだろう。

私はどうやら容疑者の友人というよりは共犯の疑いがある重要参考人という扱いらしい。

数回の事情聴取の末、私の疑いは晴れた。舞が彼女一人でやったと証言しており、私の関与を示す証拠も見つからなかったためだそうだ。

コピー販売の件でも罪に問われることはなかった。私の副業にまでは捜査の手が及ばなかったらしい。舞がうまくごまかしてくれたのかもしれないが、中心にある犯罪が軽いので、警察の動きも鈍いのだろう。

舞からの依頼については金銭授受が確認されたが、「材料費として¥△△△△△円いただきました」という領収書が私を守ってくれた。利益が出なければぎりぎりグレーゾーンに収まっていられる。ブランド側に起訴されるようなことがあれば話は別だが、その心配はないだろう。

嫌疑から解放されると、私はすっかり虚脱してしまった、何もする気の起きない日が続き、しなきゃいけないことがなければ日がな一日中布団の中かテレビの前で過ごした。編みかけのセーターは編み棒ごと棚の奥に突っ込んだままだ。

そんな状態でも会社にはちゃんと行った。むしろそんな状態だからこそ、というべきか。仕事をしている時だけは何も考えずにいられるのだ。

警察が私の職場や近所を訪れることも、この件がメディアに大きく取り上げられることもなかったのは幸いだった。死が絡んでいないおかげだろう。一時は重要参考人(多分)にまでなったが、その後の生活に支障は出ていない。

舞から連絡がないのも相変わらずだ。まあ、今は警察のお世話になっているのだから無理もない。わざわざこちらから手紙を出すのも億劫だ。

とはいえ彼女の様子は少し気になった。

散々迷惑をかけられたにもかかわらず、私に舞を憎む気持ちはなかった。それどころか、舞を思い出すたび心に浮かぶのは哀れみばかりだった。

周りを「本物」に囲まれながら、それを手にできない苦しみはどれほどのものだったろう。

私だって「本物」の魔力に取りつかれてしまった身だ。他人事のような顔で彼女を責める資格はない。

私の気力を根こそぎ奪っていったのも「本物」の魔力だった。

友人の裏切りは確かにショックだったし、警察とのやり取りにはうんざりしたけれど、どちらも精神を削られるほどではなかった。私にとっては、偽物を見抜かれたことの方が何倍、何十倍もショックだった。

布にこだわり、精魂込めて縫い上げた一着は、本物と偽物の間にある壁を乗り越えられたはずだった。それなのに、簡単に見破られてしまうなんて。

思い返せばSNSの写真で見たワンピースは偽物とは信じられないくらい典雅な輝きを纏っていた。当然だ。本物だったのだから。

道理でマネキンの着ていたワンピースがくすんだ印象を放っていたわけだ。あれこそ偽物だったのだ。

醒めた目で見れば、違いは歴然としていた。

ブランドタグだけは再現できなかったので、いずれはそこからバレていた、とかその客が特に目の利く人だったのかもしれない、とか言い訳も一通り考えてみたが、何の慰めにもならなかった。

結局、特別な教育や訓練を受けたわけでもない私が「本物」をものにできるはずなかったのだ。身の程知らず、という嘲笑が頭を駆け巡る。私には影や日陰モノがお似合いだ。ずっと前から分かっていたことではないか。

それなのに、今なお私は本物への憧れを捨てられずにいた。もはや光り輝く呪縛とも呼ぶべきそれは、私の都合に構うことなく時折現れては思考を乱していった。本物から目を背けて生きるという道は、すでに失われている。ゆえに呵責から逃れる術もない。

つむじ風のような妄念に襲われるたび、私は偽物が本物に近づく方法はないのか、と空に問うた。それは反応を期待しない嘔吐のような問いかけだった。

しかし、意外なところから答えはもたらされた。

 

「神岡さん、だよね。ちょっといい?」

 昼休憩の時間、売店に行こうと会社の廊下を歩いていると一人の男性社員に呼び止められた。

 年は私より少し上くらい、やや痩せ型で長身。清潔感のある顔立ちと身なりをしたその人には見覚えがあった。とはいえ、何度かすれ違ったことがあるという程度で、話したこともなければ名前も知らない。

 首にかけられた社員証に目を凝らす私に気づいたのだろう。その人は、企画部の戸田です、と名乗った。

「戸田さん。で、何のご用でしょう」

「新商品のアイディア、たくさん投稿してくれたでしょ。あのうちの三つを次の会議に出してみようという話になったので、ご報告まで」

「あ、はい。わざわざありがとうございます」

 そういえば応募したっけ。適当に返事をしてから思い出した。

「久し振りにポストを覗いてみたら紙が束で突っ込まれてたんで驚いたよ。あんなに案を出してくれたのは神岡さんが初めてなんじゃないかな。あれは長い間に貯めたもの?」

「いいえ。二週間弱で一気に」

「すごいや。コンスタントにそれができるなら企画部に引き抜きたいぐらいだよ。それで、会議に持ち込むアイディアについてだけど、これからいろいろ訊きに来るかもしれないので、その時はよろしくね」

「よろしくお願いします」

 戸田と別れた後、私は歩きながら何度も彼の言葉を反芻した。彼の言葉に、活路が見えた気がした。

 我が社の主力商品はカニかまぼことソイミート。なぜ今の今まで思い至らなかったのだろう。どちらもコピー食品ではないか。しかも、そのどちらも年々売り上げを伸ばしている。

 そして私の提出した案のすべてにそれらは使われている。それらがもし商品化されて人気が出たならば、偽物が本物を超えたということになりはしないか。

 新商品については企画部に依るところが大きいので、バカ売れしたとしても私の手柄にはなるまい。

だが、戸田は継続的にそれなりのアイディアを出し続けられるなら企画部へ引き抜きたい、と言っていた。

もちろんリップサービスも含まれているのだろうが、全くの出まかせということはなかろう。ここで認められれば、素敵な偽物づくりに携われる日が来るかもしれない。

新案創出がうまくいかなかったとしても、私には事務の仕事がある。この会社のために働くことは、間接的に偽物の繁栄を手伝うことに繋がる。

なんだか楽しくなってきた。早速、脳が新しいメニューを考えるべく動き出す。

軽い足取りで踏み入った売店の一角には、弊社の製品やそれを使った総菜などが並んでいる。影に溢れたコーナーだ。

でも、その影の一つ一つが私にはちらちらと輝いて見えた。
第三十六回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2019.01.10(Thu) 00:36

サイバネティック・マネキンガール

 『その日は珍しく客があった。何度か身体を弄ったことがある「軍曹殿」。彼がこれまで定期メンテナンスを受けていたところの技師が亡くなられたらしく、代わりを探しているとのこと。曰く、連れていた少女もサイボーグであるようで、彼女のメンテナンスも出来るかどうかも診て貰いたいとのことであった。

 少女はトバタ。彼女は上の名だけを名乗り、下の名については教えることを頑なに拒んだ。今は亡き父の言いつけだという。

 彼女の父親が死んだというのは一月ほど前。臨終の遺言で、長く交流のあった軍曹にひとり娘を託して逝った。軍曹のメンテナンスをしていた技師というのはこの御仁である。相当な技術のあった人物だったであろうことは、この都市で今日の今日まで二人のサイボーグを生かし続けているばかりか、病の娘にサイボーグ化の手術を施していることからも十分に察された。

 さて、少女トバタの身体についてであるが、裸であっても、それを一見しただけではとてもサイボーグであるとは判らないほど、良く出来たものであった。少なくとも四肢はサイバネ義手義足であったが、その接合部は至って自然の身体で、まるでその手足がはじめから彼女自身のものであるかのようである。

 終始寒さに震え、時折くしゃみもしていたので、感覚を切ることはできないらしく、食事も普通に摂るようで、その中身(臓器のこと)は生身であるらしかった。

 その中身については私の手に負えなさそうであったので、義手義足に限ってメンテナンスすることを引き受けた。父親からも四肢しか整備して貰っていなかったとのことだったから、問題はないだろう。

 といった具合で診察を済ませた私であったが、密かに思うところが多々あった。私は元来、例え早とちりであったと判っていても、一度思ったことは何から何まで話してしまわずにはいられない性分なのだ。実際、半分口を滑らせていたのだ。それでも、以下の事柄について、本人の前では良くぞ堪えてくれたと。我ながら感心だった。

 

 「義手義足に限ってメンテナンス」をするということは、メンテナンスの対象となり得る箇所が他にもあるということである。私は少女の身体そのものが丸々造られたものであることを半ば確信していたのだ。

 まず、義手義足と身体との接合部を見出だせなかったこと。それを露出させないために骨格から換装していたとしても、施術の痕すら残さずにというのは不可能だ。これは四肢が「義手義足」などではなく、はじめから彼女の手足であったからであると考えられた。

 次に、サイボーグ化してからはメンテナンス以上のこと(=義手義足の付け替え)をしていないというが、それにも関わらず身体に不整合が起きている様子のないこと。彼女がサイボーグ化したというのが二年ほど前(当時14歳)だというが、その2年間で生身に一切の成長が無かったということでなければ説明がつかない。だとすれば、最早生物的な成長のない機械の身体であると考えるほうが腑に落ちる。

 勿論、これらの反証となり得そうな事柄も無くはなかった。仮に彼女の身体が全身サイバネだったとして、何故電脳に感覚の選択的シャットダウンなどの機能が実装されていないのか。(サイバネの割合が大きくなればなるほど、生の臓器を生かし続けることが困難になるため、先ず脳はサイバネと取り替えてしまう。全身がサイバネ化された上で、脳だけは生のままでというのは革命以前ですら不可能だった)

 

 そのため、私はこうも考えた。すなわち、その身体ははじめから「ヒトを再現するための身体」であったと。つまり、電脳に追加の機能が付与されていないのは、目指すところが人間機能の拡張や強化といったところではないからである。理念としてはそれこそヒューマノイドのそれだ。

 実際、彼女の身体は驚くべきほどに「ヒト」そのものなのだ。造形はもちろん、機能だってそうだ。人並みに走ることが出来るように造られていて、それでいて人並み以上に走ることが出来るようには決して造られていなかった。失った機能を補う、或いは機能を拡張するといった在り方ではない。「ヒト」はその身体の目標であり、終着点であり、枷でもあるのだ。

 

 はじめ、私は彼女の身体に美を感じた。(おそらくこの都市では稀有であろう)健康的な肉付きに、ある種人体の有るべき姿を見たのかもしれなかった。

 けれども、それが全て人の手による作品であることに気がついた瞬間、何か違ったものが見えてきたのだ。絵画や彫刻、いや写真ですらそうかも知れない。凡そ人の手になる表現は人の解釈を介し、そして人の解釈を表出させている。

 ここに至って私が眼前の作品から感じ取ったのは、フェチズムだった。並々ならぬ情熱が、こだわりが、倒錯的なフェティシズムが、肢体の肉付きやその乳房、局部や脇にあしらわれた毛、そういった造形の至る所から滲み出ていたのだ。であるからこそ、あの身体はあまりにも少女らしすぎる。成長の過渡にある少女性が誇大に表現されているからだ。過渡のその瞬間を剥製をつくるかのように、それ以上成長し得ない無機なる肉体に写し取ったのがあの身体だったのだ。そこに再現されていたのは「ヒト」ではなくて、「少女」である。

 

 これも私の解釈でしかないと言われれば、なるほどその通りである。もしかしたら、(全くの憶測ではあるが)不幸にも身体を失った「娘」のために、「我が子」のためにその身体をありのまま再現しようとした父親の執念が、結果として尋常でないこだわりとして染み出していただけなのかもしれないし、或いはここに至るまでの仮定、過程の全てが私の妄想に過ぎないかもしれないのだ。』(『漫ろ語り』より)

※ ※ ※

 地下の暗闇にすっかり慣れてしまっていた目には陽の光があまりに眩しくて、トバタは思わず片手をひさしにした。徐々に荒廃した都市の風景が、そしてそれに不似合いにも露店で賑わう往来の景色がハッキリとしてくる。

 この通りの露店は「革命」以前の物品を扱う店が多い。何らかの機械の部品や種々の骨董品の他に、デジタルからにアナログ至るまでの様々なメディア等が取引されるこの露店街は、今やこの都市随一の規模を誇るようになっていた。

 その活気にあてられてか、トバタの調子も戻ってくる。

「あんなおじいさんに診てもらうなんて、もうヤだからね!全部脱がされてベタベタ触られて……」

「だが腕は確かなんだ。それに、今どきサイバネを扱える人間なんて、ここらじゃそうそうない。これからはドクターにかかる他ないだろ」

「アンタもしっかり見てたくせに、アタシのハダカ。このロリコンロボット兵、ロリコンボット」

如何にもその場で思いついたような造語で罵られた人物は、道行く人から時折「軍曹」と挨拶されていた。けれども確かに、その風体は彼女の言う通り「ロボット兵」なのだった。全身を強化外骨格で覆い、発されるのは機械的な合成音声。

「俺はロボットじゃない」

「ごめん」

 素直に謝罪。

「とりあえず、これからは身体に何かあればドクターのところに行くんだ」

「え゛〜……」

 ヤダかんね、トバタは俯き加減に地面のコンクリート片をひとつ蹴飛ばした。

 

 思いのほか軽かった瓦礫は軽快に路地を跳ねていった。歪な形をした石ころはどっちに転がっていくか、知れたものでない。その時は運が悪く、露店の売り物に当ってしまい、結局「軍曹」がそれを買い上げることになった。

「お前が持っておけ」

 そう手渡された人形をトバタは歩きながらもまじまじと眺めた。

「なんだ、樹脂人形に興味があるのか」

「まさか。良く出来てるとは思うけど……、ちょっと趣味が悪くない?」

 悪趣味と評された樹脂人形には、トバタと同い年ほどと思しき少女が際どい衣装を纏っている姿が精巧に彫られていた。彼女は知る由もなかったが、特にその造顔などには当時の美術様式が色濃く現れている。

 彼女はそれを見つめたまま立ち尽くしてしまった。

「気にすることはない。その人形は元から保存が良くなかったから売れ残っていたんだ。それをあの店主がこれ見よがしに売ってしまおうと考えただけで、大して価値のあるものでもなかった」

 そんなフォローも耳に入っていない様子で、トバタは独り言ちた。

「アタシも結局、ヒトのマネモンなのかな」

 

「やはり聞こえていたのか」

「あんなドア一枚隔てただけでナイショ話できると思うほうが、どうかしてるよ。あのおじいさん、声も大きかったしさ」

 手元を眺めているのか足元に注意しているのか、とにかく俯き加減で、また歩き出す。

「でもさ、不思議と、腑に落ちるようなところもさ、あったんだよね。元からさ、そんな気がしてたっていうかさ」

 軍曹は口をつぐんだまま、彼女がどこまで話を聞いていたのか、理解しているのかを推し量っていた。

「アレ(ドクター)が そう言ってたのかは分かんないけど……。アタシもさ、そんな風に思うことがよくあってさ。アタシの全身がサイボーグで、アタシは丸々造られたって話」

 結論を急くかのように、言葉は止まらない。

「身体がこうなる前のことをアタシは忘れちゃったみたいだし、お父さんに色々聞いてみてもさ、何だかんだでさ、はぐらかされてさ、結局具体的に話してもらったことなんてないの。お母さんのことだってさ、なーんにも。だからさ、ひょっとしたらさぁ、全部はじめっからさ、無かったんじゃないかってさ。そんなことぐらい随分前からさ」

「それだってドクターの妄想と、お前の早とちりかもしれない」

「だとしてもさ、分かんないよ。どうして何も教えてくれなかったのさ、思い出しちゃ不味いことでもあったの、やましいことでもあったの?」

 軍曹はまたも黙りこくった。

 

 露店街を抜けると人がめっきり減る。唯一の彩りであった喧騒を失った街はあまりに灰色で、乾いていた。

 静寂に耐えかねたトバタが口を開く。

「ねぇ、なんか言ってよ」

 彼は勿体ぶって間をとってみるなどした。

「忘れてしまったことは忘れてしまっているほうが良いことか、或いはどうでもいいことだったりする」

「ホーベンだね」

「方便万歳、俺だって少しの記憶を喪失しているんだ」

 記憶に数年間の空白があるという話、随分前に聞いたことがあった。 

「それでアンタは不安にはなったりしないの?それ以前の記憶は実は偽物なんじゃないか、とかさ」

「五分前仮説なんかじゃ腹はふくれない」

「ナんだよそれ。人間それでいいわけ?」

「人間だって所詮はヒトだ」

「ナニそれ」

「人なら誰だって、そんなことを一度は考える。お前ぐらいの歳には、みんなそうなんだ」

「そっかぁ……。良く出来てんね」

 そんな具合で返事したトバタは手に握られたままだった樹脂人形を見つめていた。半世紀近く流れた時間にすっかり色も褪せていたが、「彼女」は変わらず顔をしかめている。

「じゃぁ、それだったらさ。アタシはそんなことをいつまでも、ずっと、考え続けて悩み続けるんだろうね」
第三十六回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2019.01.10(Thu) 00:35

ホンモノとニセモノ

 あなたにとって本物とは何ですか?


「ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「えっと,なんですか?」
「今本物とは何かというテーマでインタビューしているんですが」
「あなたにとって本物とはなんですか?」
「うーん本物ですか」
「僕にとって本物とはみんなが本物と思うものですかね」
「みんなが本物と思う,というと?」
「なんというかみんなが本物と認めたら,それはどんなものであれ,もう本物な
んじゃないですかね.例えば古い絵とかって僕にはあんまりピンとこなくて,正
直さっぱりわからないんですけど,でも美術館に殺到する人はいるし,オークシ
ョンとかでは高い値段がつくらしいじゃないですか.そしたらもうそれは偽物と
は思えなくなってきて.もう本物なんじゃないかって思うんです.」
「なるほど.では反対にあなたにとって偽物とは何でしょうか?」
「偽物ですか」
「みんなが偽物だと思うものですかね」
「みんなが偽物だって思えば,それは本物のときと同じように偽物に思えるんじ
ゃないですかね」
「みんながみんなあれは偽物だって言ってるものが本物ってことはそうそうない
でしょうし」
「なるほど.ご回答ありがとうございました」
「最後に一つよろしいでしょうか?」
「あなたは本物ですか?」
「それは僕に聞いてもわからないですね.僕が本物かどうかは僕を知っている人
がどう思うかで決まると思うので,僕の周りの人が僕を本物だと思ってくれるな
ら,僕は本物でしょうし,偽物だと思うなら僕は偽物でしょう.だから僕に聞い
てもわからないですね」


「ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「えっと,なんですか?」
「今本物とは何かというテーマでインタビューしているんですが」
「あなたにとって本物とはなんですか?」
「うーん本物ですか」
「僕にとって本物とは僕が本物と感じるものですかね」
「あなたが本物と感じるもの,というと?」
「自分にとって本物と思えるものとか,本物にしか見えないものは,本物なんじ
ゃないかと思うんです.本物というより本物と認定するとか,本物として扱うっ
て言ったほうが正しいかもしれないですが.例えば僕は音楽とかよく聞くんです
けど,やっぱり違うんですよ.素人が演奏したのと一流のプロがやるコンサート
の演奏では違って聞こえるんです.するとやっぱり本物に聞こえるものが本物な
んじゃないかって」
「なるほど.では反対にあなたにとって偽物とは何でしょうか?」
「偽物ですか」
「まぁ自分にとって偽物と感じるものですかね」
「偽物にしか見えないものはどんなに本物って言われてもやっぱり納得できない
と思うんです.そういうものはやっぱり偽物として扱ってしまう気がします」
「だから偽物としか思えないものは偽物なんだと思います」
「なるほど.ご回答ありがとうございました」
「最後に一つよろしいでしょうか?」
「あなたは本物ですか?」
「僕自身が偽物なんじゃないかって思えるときもありますが,概ね自分は本物だ
と思っています.だから僕は本物だと思います」


「ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「えっと,なんですか?」
「今本物とは何かというテーマでインタビューしているんですが」
「あなたにとって本物とはなんですか?」
「うーん本物ですか」
「僕にとって本物とは本物という認定のあるものですかね」
「本物という認定のあるもの,というと?」
「あらゆるものに対してそれ専門の評価機関というか,研究者とか,その道のプ
ロとかそういった本物をよく知っている人がいるじゃないですか.そういう人が
これは本物って言ったら,それは本物だと思います.例えば犬の血統書ってある
じゃないですか.血統書がなかったら,本当に飼い主が嘘を言ってるのかどうか
わからないじゃないですか.でも血統書があれば本物だってわかると思います.」
「なるほど.では反対にあなたにとって偽物とは何でしょうか?」
「偽物ですか」
「偽物という認定を受けたものですかね」
「偽物って認定を受けているということは,専門家では偽物ってことで決着して
いるということです.ならばそれは偽物だと思います」
「専門家でも偽物としてしまうものであれば,それを本物と見抜ける人もいない
でしょうし,するともうそれは偽物でいいと思います」
「なるほど.ご回答ありがとうございました」
「最後に一つよろしいでしょうか?」
「あなたは本物ですか?」
「僕に対して本物か偽物かを判定しているものはありません.でも例えば戸籍が
ありますのでその点でしたら本物ですし,いくつか資格も持っているので,そう
いう点でも本物になりますね」


「ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「えっと,なんですか?」
「今本物とは何かというテーマでインタビューしているんですが」
「あなたにとって本物とはなんですか?」
「うーん本物ですか」
「僕にとって本物とは目的に応じた機能をもつものですかね」
「目的に応じた機能をもつもの,というと?」
「なにかものを使ったり買ったりするときには目的がありますよね.その目的に
応じた機能をもってるものを使ったり,買ったりする.それで,目的を達成でき
るような機能があればそれは本物だと思えます.例えば何かメモをしようと思っ
たときに,ペンと紙が必要になるじゃないですか.そのとき目の前に鉛筆とチラ
シがあったら,それを使うじゃないですか.ペンと鉛筆は違うし,紙とチラシも
少し違うけど,でも目的を達成できるし,それは本物だと思います」
「なるほど.では反対にあなたにとって偽物とは何でしょうか?」
「偽物ですか」
「目的に応じた機能をもたないものですかね」
「目的に応じた機能を持たなければ,目的を達成できないからそれは明確に偽物
ですよね」
「目的を達成できなければどんなにすがた・かたちが似ていても関係なく偽物だ
と思います」
「なるほど.ご回答ありがとうございました」
「最後に一つよろしいでしょうか?」
「あなたは本物ですか?」
「それはどういう目的で僕を扱うかによると思います.僕は医者ではないので何
かしらの治療を僕に求めるなら,僕は偽物でしょうし,僕は人間ではありますか
ら単に何らかの人数を合わせるのに僕を求めれば,本物になると思います」


「ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「えっと,なんですか?」
「今本物とは何かというテーマでインタビューしているんですが」
「あなたにとって本物とはなんですか?」
「うーん本物ですか」
「僕にとって本物とは価値のあるものですかね」
「価値のあるもの,というと?」
「なにかしらの価値があればそれは本物なんじゃないでしょうか.すごく単純化
してしまえばお金になるかどうかということになるでしょうか.それが十分なお
金になるのであれば,それは本物と言えるでしょう.例えばなにか宝石があった
として,それはお金になるという価値があるから本物といえるでしょう.もちろ
ん美しいとかそういう価値もあります.そういう価値があって始めて本物と言え
るでしょう」
「なるほど.では反対にあなたにとって偽物とは何でしょうか?」
「偽物ですか」
「価値のないものですかね」
「価値がなければそれはある意味ごみと同じなわけですから,もうそれは偽物で
しょう」
「世の中には色々な価値がありますが,そのどれにも該当しないものは必要ない
わけですから,本物ではありえない.偽物でしょう」
「なるほど.ご回答ありがとうございました」
「最後に一つよろしいでしょうか?」
「あなたは本物ですか?」
「それは僕に価値があるかどうかという話になります.もちろん価値はあります
ので本物です.もし偽物だったら生きてはいけいないでしょう」


「ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「えっと,なんですか?」
「今本物とは何かというテーマでインタビューしているんですが」
「あなたにとって本物とはなんですか?」
「うーん本物ですか」
「僕にとって本物とはそう考える根拠のあるものですかね」
「そう考える根拠のあるもの,というと?」
「なにかしらの根拠もなく判断することはできません.それが本物だと思えるた
めにはどんなものであれ相応の合理的な根拠が必要だと思います.例えば重力は
本当にあるのかと考えたら,実際に目の前でものが落ちるのを見れば,それは根
拠になるわけですし,そう考えることで矛盾することもないのであれば,それら
が合理的な根拠となって重力は本物だという判断を下せるようになると思います」
「なるほど.では反対にあなたにとって偽物とは何でしょうか?」
「偽物ですか」
「そう考える根拠のあるものですかね」
「それが偽物だという合理的な根拠があるのであれば,それは偽物だという判断
ができると思います」
「偽物とする根拠があって,本物とする根拠がなければ本物ではなく偽物と判断
するべきでしょう.仮にそれが本物であっても,本物とできる根拠がなかったわ
けですから元々わかりっこない問題だったということになると思います」
「なるほど.ご回答ありがとうございました」
「最後に一つよろしいでしょうか?」
「あなたは本物ですか?」
「それは僕が本物であると思える根拠があるかどうかということになりますが,
そんなものはありませんし,反対に偽物であるという根拠もありません.だから
本物とも偽物とも判断できないものになると思います」


 あなたは本物ですか?
第三十六回さらし文学賞 | CM(0) | TB(0) 2019.01.10(Thu) 00:34
copyright © 千葉大文藝部活動情報 all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。